今回は、脳卒中後の「失語症」について説明していきます。
医療従事者の立場から説明していきますので、是非参考にしてみて下さい!
はじめに
脳卒中は、脳内の血流が阻害されることや血管が損傷することで脳細胞に損傷を与える重大な病気です。
日本において、脳卒中は死因の上位に位置し、発症後に生じる後遺症も非常に深刻です。
その中でも、特にコミュニケーションに大きな影響を与える後遺症として「失語症」があります。
失語症は、主に脳の言語を司る領域が損傷を受けることで生じ、言葉を理解したり話したりする能力が障害されます。
失語症は、患者自身の生活の質だけでなく、家族や周囲の人々にも大きな影響を与えるため、その理解と対応が非常に重要です。
今回は、
- 脳卒中後に発生する「失語症」のメカニズム
- 失語症の診断と評価方法
- 失語症のリハビリテーションと治療法
をもとに、脳卒中後に起こる失語症について、失語症のメカニズムや症状、リハビリテーションの重要性について解説します。
医療従事者として、脳卒中後の患者に適切な治療とサポートを提供するための知識を深め、失語症を抱える患者の回復に寄り添う方法を学んでいきます。
1. 脳卒中後に発生する「失語症」のメカニズム
脳卒中は、大きく「脳梗塞」と「脳出血」に分かれます。(その他にはクモ膜下出血などがあります)
いずれも脳の血管が詰まったり、破れたりすることで脳細胞に酸素や栄養が届かなくなり、脳細胞が損傷を受けます。
特に、脳の左半球は言語機能を司る領域が集まっており、この部分が損傷を受けると失語症が発生します。
失語症の中でも特に有名なのが「ブローカ失語」と「ウェルニッケ失語」です。
ブローカ失語は、発話に関与する前頭葉のブローカ野が損傷されることで生じます。
このタイプの失語症では、患者は言葉を理解することはできるものの、話すことが困難になります。
言葉を発する際に単語が途切れ途切れになる、文法的に正しい文を作ることが難しいという特徴があります。
一方で、「ウェルニッケ失語」は側頭葉のウェルニッケ野が損傷された場合に発生し、患者は言葉を流暢に話すことはできますが、その内容が無意味であったり、会話がかみ合わないといった特徴が見られます。
話したいことを表現する際に、正しい単語が思い浮かばず、言葉が混乱することもあります。
これらのタイプの失語症は、脳卒中の損傷部位や程度に応じて発生しますが、患者によって症状の表れ方は異なります。
また、言語機能だけでなく、認知機能や身体機能にも影響が及ぶことがあり、包括的なアプローチが必要とされます。
ブローカー失語は「運動性失語」、ウェルニッケ失語は「感覚性失語」とも呼ばれることがあります。
2. 失語症の診断と評価方法
脳卒中後の失語症を診断するためには、言語能力を評価するためのさまざまなテストが行われます。
医療従事者が使用する代表的なテストのひとつが「標準失語症検査(SLTA)」です。
この検査では、患者の言語理解、発話、読解、書字、命名能力などを総合的に評価し、失語症のタイプや重症度を判定します。
これにより、個々の患者に適したリハビリテーションプランを策定することが可能となります。
具体的な診断項目としては、
- 患者が質問に対して適切に答えられるか
- 絵を見てその内容を説明できるか、
- 指示された言葉を復唱できるかと
いった、言語に関する能力が確認されます。
また、患者の話す速度や文法の正確さ、言葉の理解度を測定することで、どの領域に問題があるのかを明確にします。
診断を行う際には、脳の損傷部位を特定するためにMRIやCTスキャンなどの画像診断も行います。
これにより、どの脳領域が損傷を受けているのかを視覚的に確認し、失語症の原因となっている損傷部位を把握することができます。
特に脳の言語野周辺の損傷が確認された場合、失語症が起こる可能性が高いため、これらの検査結果を基に適切な治療計画が立てられます。
3. 失語症のリハビリテーションと治療法
脳卒中後の失語症の治療において、リハビリテーションは非常に重要な役割を果たします。
言語機能の回復は時間がかかるため、患者が適切なリハビリを継続することで、失われた能力を部分的にでも取り戻すことが可能な場合もあります。
リハビリの開始はできるだけ早期に行われることが推奨されており、その病院によりけりですが、脳卒中後の急性期からリハビリが始まります。
言語療法士(ST)による個別の言語訓練がリハビリの中心となります。
この訓練では、患者が日常生活で使う基本的な言葉やフレーズを繰り返し練習し、言語機能を回復させるための訓練を行います。
例えば、簡単な会話や命名、文章の復唱などを行い、損傷された脳の言語野の再編成を促すことが目標です。
また、患者の進行度に応じて、より複雑な言語スキルを訓練し、会話能力の向上を図ります。
また、補助的なコミュニケーション手段も活用されます。失語症が重度の場合、患者は言葉を使ったコミュニケーションが難しいため、ジェスチャーや絵カード、電子機器を用いたコミュニケーション方法を導入することがあります。
これにより、患者が意思疎通を図りやすくなり、コミュニケーションのストレスを軽減することが可能です。
さらに、家族や介護者もリハビリに積極的に関与することで、日常生活でのサポート体制を構築することが求められます。
家族が患者に対して適切な刺激を与え、言語機能の回復を促進する役割を果たすことも重要です。
失語症のリハビリテーションにおいては、患者のモチベーションも重要な要素となります。
脳卒中後の失語症は、患者にとって大きな精神的ストレスとなり、自信喪失や孤立感を引き起こす可能性があります。
そのため、医療従事者や家族が患者に対して積極的な支援を行い、患者が前向きにリハビリに取り組める環境を整えることが大切です。
おわりに
脳卒中後の失語症は、患者にとって非常に厳しい現実です。
言葉を失うことは、単にコミュニケーションができなくなるだけでなく、社会的な孤立感や精神的な負担を大きくする要因にもなります。
しかし、適切な診断とリハビリテーションを通じて、失語症の回復は可能な場合もあります。
医療従事者として、失語症患者に寄り添い、言語機能の回復に向けて適切なサポートを行うことが求められます。
また、家族や周囲の人々がリハビリに積極的に参加し、患者が前向きに取り組める環境を整えることが、回復への大きな一歩となります。
脳卒中後の失語症の治療には、長期的な視点と持続的な支援が不可欠です。
患者一人ひとりの症状や状況に合わせたリハビリテーションプランを構築し、患者が再び日常生活で自立できるように支援していくことが重要です。
失語症に関する理解を深め、効果的な治療とサポートを提供することで、患者の生活の質を向上させることができるでしょう。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました。
参考文献
- Damasio, A. R. (1992). Aphasia. New England Journal of Medicine, 326(8), 531-539.
- Hillis, A. E. (2007). Aphasia: Progress in the last quarter of a century. Neurology, 69(2), 200-213.
- Thompson, C. K., & Shapiro, L. P. (2007). Complexity in treatment of syntactic deficits. American Journal of Speech-Language Pathology, 16(1), 30-42.