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医療従事者が教える理解されづらい「半側空間無視」とは?

今回は理解されづらい「半側空間無視」について説明していきます。

医療従事者の立場から説明していきますので、是非最後まで読んでみて下さい!

はじめに

「半側空間無視」という言葉を耳にすることは少ないかもしれませんが、これは脳の損傷に関連した症状で、特に脳卒中や外傷性脳損傷(TBI)などを経験した患者に多く見られる現象です。

この症状を抱える患者は、視覚的、聴覚的、あるいは身体的に、片側の空間に対する意識や注意が極端に欠けてしまいます。

最も典型的な例としては、右脳の損傷によって左側の空間を無視してしまうケースが挙げられます。

この症状は、周囲の人々から理解されにくく、患者自身も自分が「見えていない」ことに気づいていない場合が多いため、リハビリテーションや日常生活でのサポートが非常に難しい状況に陥ることが少なくありません。

今回は、

  1. 半側空間無視とは?
  2. 半側空間無視の診断と評価方法
  3. 半側空間無視のリハビリテーションと治療法

をもとに、半側空間無視がどういったものであり、なぜ理解されにくいのか、そしてどのようなアプローチで治療やサポートが行われているのかを詳しく解説していきます。

半側空間無視は高次脳機能障害の中の1つとなります。


1. 半側空間無視とは?

半側空間無視(Hemineglect、またはUnilateral Spatial Neglect)は、脳の片側が損傷を受けた結果、反対側の空間や物体に対する注意を欠如してしまう症状です。

主に右脳の損傷が原因で、左側の空間認識が損なわれるケースが多く見られます。

例えば、患者は左側の物体を見逃したり、左側にあるものに触れることや操作することができなくなります。

興味深いのは、視覚障害ではなく、認知的な注意の問題である点です。

この障害は、通常、脳卒中後のリハビリテーションにおいて特に顕著になります。

脳の損傷部位が右側頭葉や頭頂葉にある場合、空間認識に問題が発生しやすく、患者は左側の空間全体を認識することが困難になります。

日常生活では、食事の際に皿の左半分を食べ残す、左側にあるドアを見逃す、あるいは左側の衣類を着忘れるといった具体的な行動が見られます。

これにより、患者の日常生活に大きな支障が出る一方で、周囲の人々はその異常を理解しにくいことが多いです。

なぜなら、患者は「見ることができない」のではなく、「気づいていない」という認知的な問題に直面しているからです。

そのため、半側空間無視は、患者が自らの状態を認識しづらく、治療やサポートが難航することが多いのです。

 


2. 半側空間無視の診断と評価方法

半側空間無視を診断するための標準的な方法には、いくつかの臨床テストが存在します。

その中でも、代表的なものは以下の通りです。

  • 線分二等分テスト:紙に描かれた直線を、患者が正確に半分に分割するように指示します。半側空間無視を持つ患者は、無視している側(通常は左側)に大きく偏った位置で直線を分割する傾向があります。
  • クロック描画テスト:患者に時計の円を描かせ、指定された時間を示すように数字を書かせます。半側空間無視がある場合、患者は通常、時計の左側に数字を配置することができません。
  • キャンセルテスト:紙上に散らばったランダムな点の中から、指定された点を線で消すように指示します。半側空間無視がある患者は、左側の点を無視し、右側の点だけを消す傾向があります。

これらのテストは、簡単でありながら半側空間無視の程度を評価するために非常に有効です。

また、MRIやCTスキャンなどの脳画像検査も併用され、損傷した脳の部位を確認することができます。

診断後は、患者の無視の程度や症状の具体的な影響を評価し、適切なリハビリテーション計画を立てることが重要です。

半側空間無視は時間とともに改善することがあるため、早期の診断と介入が非常に重要です。

 


3. 半側空間無視のリハビリテーションと治療法

半側空間無視の治療は、リハビリテーションによって注意を無視している側に向けさせることが基本となります。

以下は、一般的な治療法やリハビリのアプローチです。

  • 視覚探索訓練:患者に、左側の空間に注意を向けさせるための視覚的な訓練が行われます。具体的には、患者に左側の物体を意識的に探させたり、左側に設置されたモニターで映像を確認させるなどの訓練が含まれます。この訓練は、無視された側に徐々に注意を引き戻す効果があります。
  • プリズム適応療法:プリズム眼鏡を用いて視覚フィールドを調整し、患者の視覚的注意を無視している側に向けさせる方法です。この方法は、視覚的な刺激を強化し、空間認識の再編成を助けると考えられています。一定の成果が報告されていますが、持続的な効果についてはまだ議論が続いています。
  • 運動療法:リハビリテーションにおいて、患者が左側の身体を意識的に動かすことで、注意を促進させるアプローチも有効です。例えば、左側の腕や脚を動かすリハビリを行いながら、無視している側に注意を向けさせることが目指されます。
  • 日常生活での環境調整:半側空間無視を持つ患者に対しては、日常生活でのサポートが重要です。例えば、食事時に食器や物を左側に置く、家の中の物の配置を左側に集中させるなどの工夫が求められます。また、家族や介護者が患者の左側に立って話しかけることで、注意を引きやすくすることが可能です。

これらのリハビリテーションは長期的に行われる必要があり、患者の進展に応じてアプローチを調整することが必要です

また、心理的なケアも同時に行い、患者が自らの症状を受け入れ、リハビリに積極的に取り組む意識を持つことが大切です。

 


おわりに

半側空間無視は、脳の損傷によって引き起こされる認知的な障害であり、患者にとって大きな負担となります。

見えないのではなく「気づいていない」ため、周囲の人々にとっても理解しづらく、支援が難しいケースが多いです。

しかし、適切な診断とリハビリテーションを通じて、症状は改善される可能性があります。

医療従事者として、半側空間無視の患者に対しては、継続的なリハビリと日常生活の中でのサポートが非常に重要です。

また、家族や介護者も一緒に取り組むことで、患者が日常生活をよりスムーズに送れるようになる手助けができます。

理解されづらい障害ではありますが、適切な知識とアプローチによって、患者が前向きに回復に向かう道を見つけられるでしょう。

今回も最後まで読んで頂きありがとうございました。

 


参考文献

  1. Kerkhoff, G. (2001). Spatial hemineglect in humans. Progress in Neurobiology, 63(1), 1-27.
  2. Corbetta, M., & Shulman, G. L. (2011). Spatial neglect and attention networks. Annual Review of Neuroscience, 34, 569-599.
  3. Bowen, A., Lincoln, N. B., & Dewey, M. (2007). Cognitive rehabilitation for spatial neglect following stroke. Cochrane Database of Systematic Reviews, 2.

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