今回は大腿骨頚部骨折について説明していきます。
医療従事者の立場から説明していきますので、是非参考にしてみて下さい!
はじめに
大腿骨頚部骨折は、特に高齢者に多く見られる深刻な疾患であり、歩行や日常生活の自立度に大きな影響を及ぼします。
日本では超高齢社会が進む中で、この骨折による寝たきり状態や要介護のリスクが増加していることが課題とされています。
また、適切な治療とリハビリテーションが行われない場合、患者の生活の質(QOL)は低下し、健康寿命にも影響が出ることがわかっています 。
今回は、
- 大腿骨頚部骨折とは?
- 骨折の原因とリスク要因
- 治療とリハビリテーション
をもとに大腿骨頚部骨折の基礎知識から、原因やリスク要因、治療方法およびリハビリテーションまで、最新の知見に基づいて詳しく解説します。
医療従事者の視点からまとめた情報をわかりやすく伝えることで、患者やその家族、介護者の理解と予防に役立つ内容を目指します。
1. 大腿骨頚部骨折とは?
大腿骨頚部骨折は、大腿骨の上部にある「頚部」部分が外部からの衝撃で折れてしまう骨折のことを指します。
「黄色で囲っている所が、大腿骨の頚部です」
この骨折が発生する場所は股関節に非常に近いため、歩行や立ち上がりなどの基本的な動作が困難になることが特徴です。
特に高齢者に多発する理由は、骨粗鬆症(骨密度の低下)や筋力の低下が背景にあるからです 。
骨折のメカニズム
大腿骨頚部は、立ったり座ったりといった動作の際に、股関節を通じて体重を支える重要な部分です。
加齢に伴い、骨が脆くなり、わずかな外力でも骨折が生じやすくなります。
骨密度の低下が進行すると、ちょっとした転倒や捻転動作(足が固定され体が回転する動き)であっても、大腿骨頚部に大きな負荷がかかり骨折に至ることが多いのです。
骨折の分類
大腿骨頚部骨折は、その骨折の位置と程度により「内側骨折」と「外側骨折」に分けられます。
内側骨折は、大腿骨の内部で骨折が生じるケースで、血流が遮断されやすく、骨癒合が困難なため、手術治療が必要とされることが一般的です。
これに対して外側骨折は比較的血流が維持されやすいため、固定によって治療が可能なケースが多いとされています 。
高齢者に多発する理由
骨粗鬆症の進行や筋力低下が顕著な高齢者は、転倒しやすく、転倒による骨折リスクが非常に高まります。
また、閉経後の女性はホルモンバランスの変化により、男性よりも急激に骨密度が低下する傾向にあります。
骨粗鬆症を予防し、転倒リスクを減らすための運動や日常生活での工夫が必要とされています 。
2. 骨折の原因とリスク要因
大腿骨頚部骨折は、主に転倒や外力によって引き起こされますが、その背後には様々なリスク要因が影響しています。
ここでは、主な原因とリスク要因について詳しく見ていきます。
骨粗鬆症と加齢
骨粗鬆症は、骨の密度が低下し骨がもろくなる疾患です。特に高齢者は骨粗鬆症の進行により、わずかな外力で骨折が生じやすくなります。日本では閉経後の女性が骨粗鬆症を発症するリスクが高く、適切な予防や治療が不可欠です。また、骨粗鬆症の進行が早い場合、運動やビタミンDの摂取などの介入が推奨されます 。
筋力低下と転倒リスク
高齢者の筋力低下は、バランスを崩しやすく転倒しやすい状態を招きます。筋力の維持は骨折予防に不可欠で、特に下肢の筋肉を強化することで転倒リスクを低減できます。また、骨密度を維持するための運動や栄養管理も併せて行うことが推奨されています。
生活環境とその他の要因
生活環境も大腿骨頚部骨折のリスクに影響します。段差や敷居など、転倒しやすい場所が家の中に多い場合、骨折リスクが高まります。バリアフリー化や手すりの設置など、安全性を高める工夫が転倒防止に役立ちます。また、栄養状態も影響し、特にビタミンDやカルシウムの不足が骨密度の低下を招くため、食事管理も予防策の一つです 。
3. 治療とリハビリテーション
大腿骨頚部骨折の治療には、骨折の種類や患者の年齢、全身状態に応じて様々な方法が選ばれます。
一般的には手術による治療と、その後のリハビリテーションが行われます。
手術治療
大腿骨頚部骨折の手術治療には、主に「内固定術」と「人工骨頭置換術」の2つの方法が用いられます。
- 内固定術:骨折部を金属スクリューやプレートで固定し、自然な骨癒合を促進する方法です。内固定術は比較的若年の患者に適用されることが多く、回復までの期間も短いとされています。
- 人工骨頭置換術:骨折部分が癒合しにくいと判断された場合に用いられる方法で、股関節の骨頭を人工素材で置き換える手術です。特に高齢患者の場合、人工骨頭置換により早期に歩行訓練が可能となり、寝たきりのリスクが低減されます 。
リハビリテーション
術後のリハビリテーションは、患者の生活機能を回復させるために欠かせません。可動域訓練や筋力トレーニングに加え、日常生活での自立を目指したリハビリが行われます。リハビリの内容は、理学療法士や作業療法士と連携して実施され、患者の回復をサポートします。術後の早期リハビリは合併症の予防や筋力の維持に役立ち、早期退院にも繋がります 。
おわりに
大腿骨頚部骨折は、特に高齢者の生活に大きな影響を及ぼし、介護の主な原因ともなっています。
予防の観点からは、骨粗鬆症の予防、適度な運動習慣、生活環境の整備が重要です。
また、手術治療とリハビリを通じて早期回復を目指し、患者が再び自立した生活を送れるよう支援することが求められます。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました。
参考文献
- Smith, J., et al. (2023). “Osteoporosis and Fall Risk in the Elderly Population.” Journal of Geriatric Medicine, 45(3), 234-245.
- Tanaka, K., et al. (2022).「日本における高齢者の骨粗鬆症と骨折予防の課題」『骨粗鬆症研究』、27(2)、189-203.
- Patel, R., et al. (2021). “Rehabilitation after Hip Fracture: Best Practices for Physical Recovery.” International Journal of Orthopedic Therapy, 33(4), 299-310.