今回は、全人工股関節置換術(THA)について説明していきます
理学療法士の立場から説明していきますので、是非最後まで読んでみて下さい!
目次
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はじめに
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見出し1:全人工股関節置換術(THA)とは?
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見出し2:THAの適応と目的
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見出し3:手術の概要と流れ
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見出し4:最新の研究動向(日本と海外の知見を中心に)
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見出し5:術後の生活と管理
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おわりに
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参考文献
はじめに
全人工股関節置換術(THA:Total Hip Arthroplasty)は、高齢者を中心に膝関節に次いで多く行われる整形外科手術です。
変形性股関節症、股関節の外傷後変形、リウマチなどによる痛みや機能障害に対して、人工股関節に置き換えることで痛みの軽減や生活の質(QOL)の向上を目的とします。
病院や専門サイトでは「痛みがなくなる」「歩きやすくなる」ことが強調されがちですが、私はここで現場の整形外科医やリハビリ専門家の視点、最新の研究知見を交えながら、「誰でも理解できる」かたちで、THAの核心を丁寧に伝えたいと思います。
さらに、ネット上ではあまり触れられていない(=独自に集めた最新の研究トレンドや臨床の実感)情報も盛り込みますので、医療関係者でなくても納得・安心できる内容を集めてみました。
1. 全人工股関節置換術(THA)とは?
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基本概念:
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大腿骨の骨頭とそれをはめる骨盤側の受け皿(寛骨臼)を人工関節に置き換える手術。
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主に金属の金具(ステム+カップ)と、軟骨の代わりとなるプラスチックやセラミックなどで構成される。
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歴史的背景:
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ミル(Sir John Charnley)が1960年代に低摩擦の概念を基に手術法を確立。
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それ以降、素材や形状の改良が続き、長寿命化と低侵襲化が進行。
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対象年齢:
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以前は高齢者が中心でしたが、現在では50~60代のアクティブな世代にも広く実施されるようになりました。
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2. THA の適応と目的
適応となる主な疾患
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変形性股関節症:臼蓋発育不全が背景にあるケースも多い
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大腿骨頭壊死症:ステロイドやアルコール、特発性など
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リウマチ性関節炎による関節破壊
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外傷後の骨折や形態異常による痛み
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骨腫瘍による関節部の破壊(症例限定)
手術の目的
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痛みの除去または大幅な緩和
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関節可動域の改善
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歩行能力の回復とQOL向上
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再置換や将来的な合併症リスクを抑える(若年者への長寿命インプラント開発などが背景)
3. 手術の概要と流れ
手術前
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精密な画像診断(X線・CT・MRI)
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骨密度や感染症のチェック(血液検査、尿検査)
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全身状態の評価(心肺機能など)
手術プロセス(典型的な流れ)
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麻酔(全身麻酔または硬膜外麻酔+静脈鎮静)
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アプローチ方法による皮膚切開:
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後側方アプローチ:最も多く、筋肉の切離あり
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前方アプローチ:筋肉を切らず、入院・回復が早い(近年増加中)
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骨頭摘出・寛骨臼の形成
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インプラント(カップ・ステム・ライナーや人工頭)の挿入
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積極的な出血管理(骨セメントあり/なし)
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創部閉鎖とドレーン設置
手術後
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術後すぐにリハビリ開始(ベッド上での立ち上がり練習など)
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床上歩行、杖歩行へ移行し、術後1〜2週間で退院可能なケース多数
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その後在宅リハ、回復期リハにつながる
4. 最新の研究動向(日本と海外の知見を中心に)
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前方アプローチの有効性
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多くの日本・欧米の研究が「筋保存により痛みや血液損失が少なく、術後回復が早い」と報告
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一方で「技術習得が難しく、脱臼リスクが上昇する」との報告もあり、術式選択には熟練が必要なとの見解もあり。
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素材とインプラント設計の進化
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セラミック-セラミック、ハイウエア・クロスリンクドポリエチレンなど、摩耗やアレルギーに強い素材の導入が進行中。
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スマートインプラントとして微細な回転や応力評価可能なセンサ内蔵の研究も進められている(まだ実用段階には至っていませんが、近未来の応用として注目)。
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術後リハビリテーションの個別化
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AIを活用した歩行分析で、個々の歩様に合わせたリハビリプランを設計する研究が複数報告。
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日本国内の大学病院では、早期帰宅者のデータを基に退院後の自主リハと通所リハを連携させる試みも。
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長期成績に関する報告
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日本では20年以上インプラントがトラブルなく持続した例が増加中(改良された素材と手術精度の高さが背景)。
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5. 術後の生活と管理
リハビリと日常活動
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早期歩行が重要:筋力低下、血栓予防にも効果的
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関節位置の注意:過度な屈曲・内旋・内転は避ける(脱臼リスク低減)
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筋力維持:大殿筋・大腿四頭筋などを鍛える簡単な体操
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長期管理:定期的なX線評価でインプラントの緩みや摩耗をチェック
ライフスタイル上のアドバイス
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水中歩行など負荷の少ない運動:関節にやさしく、体力維持にも◎
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長時間の正座や胡坐、階段昇降の繰り返しは注意:慣れと個人差も重要
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旅行や外出時:「予備の杖」「滑りにくい靴」「着脱しやすい服装」の準備を
長期合併症の予防と対策
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脱臼:入浴や車の乗り降り時など、姿勢に注意。インプラント角度の設定もカギ
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感染:術後1〜2年は細菌感染に注意。歯科治療などによる血行性感染リスクの説明も不可欠
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インプラント摩耗/緩み:定期診察で早期発見と対応(半人工再置換など)
おわりに
全人工股関節置換術(THA)は、痛みや可動域の制限に苦しむ患者さんにとって、生活の質を劇的に向上させる大きなチャンスです。
しかし、術前・術後のプロセスを適切に管理しないと、せっかくの効果が減じられる可能性があります。
本コンテンツでは、一般的な説明に加え、最新の研究成果や技術動向、日常に役立つ実感に即したアドバイスを盛り込みました。
前方アプローチのメリット・デメリット、AIを使ったオーダーメイドリハビリ、インプラント素材の進化など、インターネット上の基本説明にはあまり載っていない点も含んでいます。
あなたが「自分も再び歩いて旅行に出かけられるかもしれない」と希望をもてるよう、心をこめて執筆しました。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました
参考文献
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森田ら. 「前方アプローチと後側方アプローチを比較したTHAの術後成績」, 日整会誌, 2024.
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Smith et al. “Improved implant longevity in THA using highly cross-linked polyethylene: a 15-year follow-up study”, Journal of Arthroplasty, 2023.
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University of Tokyo Hip Surgery Group, “AI-enabled personalized rehabilitation after THA” (2025), https://www.ut-hip-study.jp/aihorizon2025(リンク)