今回は、肺の病気が潜むサイン5選について説明していきます。
呼吸療法士の立場から説明していきますので、是非最後まで読んでみて下さい!
はじめに
健康診断では、血液検査や胸部X線、問診などを通じて様々な疾患の早期発見が期待されます。
しかし、特に「肺の病気」に関しては、検査項目や精度の限界から、初期段階で見逃されることが少なくありません。
肺は病気が進行するまで自覚症状が乏しいことが多いため、日々の体調の変化を見逃さないことが極めて重要です。
ここでは、健康診断では見つけづらいが、実は肺の疾患が潜んでいる可能性のある「サイン」を5つ厳選し、それぞれについて詳細に解説していきます。
海外の最新論文や日本国内の呼吸器内科ガイドラインの知見を交えながら、医学的根拠に基づいてご紹介していきます。
1. 慢性的な咳:3週間以上続く咳には要注意
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肺がんや間質性肺炎の前兆の可能性
長引く咳は、肺がん、特に末梢型肺がんや、特発性間質性肺炎(Idiopathic Pulmonary Fibrosis: IPF)の初期症状であることがあります。慢性的に刺激されることで気道に微小な炎症が広がるため、特定の疾患のサインと考えるべきです。 -
健康診断ではスルーされがち
通常の健康診断では、咳の持続期間やパターンを詳細に評価する項目がなく、X線写真でも初期の異常は映らないことがあります。 -
実例
ある60代男性は、半年以上「風邪だと思っていた咳」が続き、CT検査で肺がんと診断されました(国立がん研究センター報告)。
2. 軽度な息切れ:高齢者に多い見逃される訴え
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酸素交換機能の低下を示す可能性
階段の昇り降りや、坂道での軽い運動で息切れを感じるようになったら、それは肺胞の換気効率が低下している可能性があります。これは慢性閉塞性肺疾患(COPD)や肺高血圧症の初期に見られることがあります。 -
問診では出にくい症状
健康診断の問診では「特に運動しないので自覚がない」というケースも多く、検査対象から漏れることがあります。 -
観察のポイント
話している最中の息切れ、深呼吸のしにくさ、口を開けた呼吸などはチェックすべきサインです。
3. 微熱や寝汗:炎症や感染の初期症状か
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結核や肺炎、肺アスペルギルス症などが背景に
微熱や寝汗は、慢性炎症や潜在感染症の兆候であり、特に免疫が低下した高齢者や喫煙者では見逃せません。 -
CRP値や白血球数が正常でも油断禁物
健康診断での血液検査では異常が出ないことも多く、微細な炎症反応はCTや専門的な血清検査でしか検出できません。 -
臨床報告
最近の論文(European Respiratory Journal 2023)では、微熱のみで始まった肺結核症例の報告が増えており、診断の難しさが指摘されています。
4. 声のかすれや嗄声(させい):肺が声帯に影響?
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反回神経の圧迫が原因か
声のかすれが続く場合、肺の腫瘍が反回神経(声帯を動かす神経)を圧迫している可能性があります。特に左側の肺上葉の病変では典型的です。 -
耳鼻咽喉科では異常なしでも
喉には異常がないにもかかわらず、嗄声が続く場合には胸部CTの撮影が必要です。 -
見逃されやすい現場の例
医師が風邪と診断した声枯れが、実は肺がんの圧迫症状だったという事例もあります。
5. 無症候性の低酸素血症:サイレントハイポキシア
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自覚症状なしに酸素飽和度が低下するケース
特に新型コロナ感染症において「サイレントハイポキシア」として知られるようになったこの現象。肺の機能が低下しても、初期には息苦しさを感じないことがあります。 -
健康診断では酸素飽和度は測定されない
パルスオキシメーターによるSpO₂の測定が一般健診には含まれていないため、自宅でのチェックが推奨されます。 -
臨床応用
COPDや肺線維症の初期でSpO₂が92%以下を示す例があり、呼吸器専門医による評価が必要となります。
おわりに
肺の病気は進行するまで自覚症状が出にくく、健康診断でも見逃されるケースが少なくありません。
しかし、日常の小さな体調の変化――「咳が続く」「息が切れる」「微熱が続く」「声がかれる」など――に注意を向けることで、重大な病気を早期に発見できる可能性が高まります。
特に高齢者や喫煙者、呼吸器系に既往症のある方は、健康診断だけに頼らず、日々の体調観察や専門医の定期的な診察が大切です。
また、近年では肺疾患の画像診断(低線量CTなど)や呼吸機能検査の重要性が再評価されています。
本記事で紹介した5つのサインに一つでも心当たりがある方は、放置せず、かかりつけ医または呼吸器内科を受診することを強くおすすめします。
早期発見・早期治療こそが、重症化を防ぐ最善の方法です。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました
参考文献
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Simonds AK. “Respiratory disease in older people.” Clin Med (Lond). 2012.
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Pérez-Padilla R, et al. “Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease (GOLD): COPD Diagnosis and Management.” Lancet. 2023.
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American Lung Association. “Warning Signs of Lung Disease.” https://www.lung.org/lung-health-diseases/warning-signs-of-lung-disease