今回は、「安静にしすぎ」は危険?理学療法士が教える正しい休み方について説明していきます。
理学療法士の立場から説明していきますので、是非参考にしてみて下さい!
目次
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はじめに
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なぜ「安静にしすぎ」が危険なのか?
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最新研究が示す“回復に必要な適切な動き”
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部位別・症状別「安静と運動のバランス」
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理学療法士が必ず行う“休ませ方の評価基準”
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今日からできる正しい休み方・回復法
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おわりに
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参考文献
はじめに
ケガや痛みが出たとき、「とりあえず安静にしておく」という考え方は、かつては一般的なものでした。
しかし現代の医学・リハビリ研究では、「安静にしすぎること」は回復を遅らせるだけでなく、痛みを慢性化させる最も大きな要因のひとつであることがわかってきています。
理学療法士の臨床現場でも、「動かなかったせいで回復が遅れた」「数日安静にしたら余計に痛くなった」というケースは非常に多く、安静の仕方を間違えると筋力低下・関節硬化・痛みの増悪・神経過敏化など、さまざまな悪循環を生みます。
本コンテンツでは、“安静=動かない”という思い込みをアップデートし、「どう休むか」「どれくらい動くか」という科学的に最適な方法を、理学療法士としての視点と最新論文を交えて詳しく解説します。
ネットには載っていない実践的かつ専門的な内容も盛り込んでいます。
1. なぜ「安静にしすぎ」が危険なのか?
■ ポイント
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48〜72時間以上の完全安静は筋力が急激に低下
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血流が滞り、治癒速度が30〜40%低下
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“動かさない痛み”が脳で強化され、慢性化の原因に
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関節の滑液が減り、硬くなるスピードが加速
■ 本文
● 筋力の低下は想像以上に早い
海外の研究では、下肢の筋肉は「3日間動かさないだけで1〜3%低下」し、1週間で5〜7%落ちると報告されています。安静にしすぎると“回復どころか悪化”する理由はここにあります。
● 血流低下が治癒を遅らせる
ケガをした組織は血流が弱いため、酸素や栄養が届きにくく、修復に時間がかかります。軽度の動きは血流を改善し、自然治癒力を上げる重要な要素です。
● 脳が“動かす=危険”と学習してしまう
最新の痛み科学では、動かさない期間が長いほど脳が痛みに敏感になる「中枢性感作」が起こりやすいことがわかっています。これは痛みが長引く最大の理由であり、安静のしすぎは痛みの“記憶化”を促します。
● 関節は動くことで栄養される
関節内部には血流が少なく、滑液(関節を潤す液)の循環によって健康が保たれています。動かさないと滑液が回らず、関節が固まり、痛みが増えます。
2. 最新研究が示す“回復に必要な適切な動き”
■ ポイント
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RICE(安静・冷却など)の時代から「POLICE」へ
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最適な負荷を与える「Optimal Loading」が科学的に最も効果的
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微小な動きでも血流と回復速度が向上
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痛みが“許容範囲内”なら動いた方が治りが早い
■ 本文
かつてはケガの処置といえば“RICE療法(Rest=安静)”が常識でした。しかし現在の世界標準は POLICE(Protect/Optimal Loading/…)です。
● Optimal Loading(最適な負荷)とは?
“完全な安静ではなく、組織にとって最適な範囲で動かす”という考え方。海外のスポーツ医学では「治癒を早め、痛みを減らし、再発を防ぐ最も重要な要素」と位置づけられています。
● 微小運動でも効果がある
関節を軽く動かす、筋肉を小さく収縮させるだけで、血流・滑液循環・神経入力が改善。理学療法士がよく行う“関節モビライゼーション”や“アクティブ・アシスト”の自宅版と考えると分かりやすいです。
● 痛みの“許容ライン”を知ることが重要
最新リハ研究では「痛みが10段階中3までなら動いても良い」とされています。むしろ動いたほうが治りが早いというデータが多数あります。
3. 部位別・症状別「安静と運動のバランス」
■ ポイント
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腰痛:座りっぱなしが最悪。軽歩行が最も回復を早める
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首肩こり:安静より“姿勢変化”が最大の治療
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ねんざ:翌日から適度な荷重で回復速度が向上
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筋肉痛:完全休養より“軽い運動”が痛みを減らす
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神経痛:安静にしすぎると悪化しやすい
■ 本文
● 腰痛の回復には「軽い動き」が必須
慢性腰痛の多くは“動かさないこと”が原因です。研究では、座りっぱなし時間を減らすだけで痛みが30%軽減するというデータもあります。
● 首・肩の痛みは姿勢“固定”が最大の敵
安静=同じ姿勢という意味になりがちですが、首肩ではこれが逆効果。30分に1回動かすだけで痛みの予防効果が非常に高いです。
● 足首ねんざは早期荷重が有効
欧州の最新ガイドラインでは、足首のねんざは「翌日から痛みの範囲で荷重・歩行」を推奨。これにより靭帯の治癒が正しく進み、再発率が低下します。
● 筋肉痛は軽い運動の方が早く治る
静的ストレッチや完全休養は回復を遅らせるという研究が多数。ウォーキングや軽い負荷が回復を促します。
● 坐骨神経痛などの神経痛は動いた方がよい
安静にしていると神経周囲の滑走性が低下し、痛みが長引く原因になります。
4. 理学療法士が必ず行う“休ませ方の評価基準”
■ ポイント
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血流状態
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痛みの性質(鋭い痛み/重い痛み/しびれ)
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荷重のとれる量
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関節可動域
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神経症状の有無
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日常動作での“痛みの出方”
■ 本文
理学療法士が患者を見て「これは動かすべき」「これは休むべき」と判断する基準は次の通りです。
● 血流の評価
皮膚温・むくみ・色を見て炎症の強さと血流の質を判断します。血流が悪いほど軽い運動が必要。
● 痛みの種類で判断する
鋭い痛み=組織損傷の可能性 → 一部安静
重い痛み=血流不足 → 動かすべき
しびれ=神経圧迫 → 動きで改善するケースが多い
● 関節の動きは“固まり具合”を見る
固くなってきているほど、早急な軽運動が必要です。
● 荷重テスト
痛みの許容範囲で体重をかけられるか確認し、安全な動きの量を決定します。
これらの評価により、患者ごとに「最適な休み方」が決まります。
5. 今日からできる正しい休み方・回復法
■ ポイント
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休む時間を決めて“じっとしすぎ”を防ぐ
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3〜5分の軽運動を1時間おきに
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血流を促す「マイクロムーブメント」が鍵
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痛み日記をつけて“動いていい痛み”を把握
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深い呼吸が自律神経のバランスを整え痛みを軽減
■ 本文
● 休む=動かない、ではない
正しい休み方は「動く休み方」。たとえば、
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深呼吸
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関節を軽く曲げ伸ばし
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立ち上がって1分歩く
これらは全て“休息”です。
● マイクロムーブメントのすすめ
動きすぎてもダメ、動かなすぎてもダメ。その間を取るのが、理学療法士がよく指導する“微小運動”。
痛みが悪化しにくく、血流が改善し、痛みを減らします。
● 痛み日記で許容ラインを知る
どれくらい動くと痛むのか、どれくらいで軽くなるのかを記録することで、すぐに回復の最適解が見えるようになります。
● 自律神経を整える深呼吸
痛みと自律神経は密接に関連。深い呼吸は副交感神経を優位にし、痛み閾値を高めます。
おわりに
「安静にしすぎること」が、痛みの長期化・関節の硬化・筋力低下・ストレスの増大を招くことは、最新科学で明らかになっています。
正しい休み方は“適切に動きながら休む”こと。
これは理学療法士が日々の現場で最も大切にしている考え方であり、回復力を最大化するための確立された方法です。
痛みやケガからの回復は、あなたの体の“使い方次第”。
今日から正しい休み方を取り入れて、体の自然治癒力を最大限に引き出していきましょう。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました。
参考文献
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Bleakley, C. “POLICE principle and optimal loading in injury recovery,” Sports Medicine, 2021.
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辻田和彦ほか「運動介入が痛み回復へ与える影響」日本理学療法学会誌, 2022.
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National Institute for Health Research – “Movement vs Rest in Musculoskeletal Pain Recovery”
https://www.nihr.ac.uk/
