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知られていない!?男性でも起こる産後うつとは?

今回は、知られていない!?男性でも起こる産後うつについて説明していきます。

医療従事者の立場から説明していきますので、是非参考にしてみて下さい!

目次

はじめに
1 「男性の産後うつ」とは何か?
2 発症メカニズムとリスク要因
3 症状・サイン:妻とは異なる男性特有のサイン
4 家族・子ども・パートナー関係への影響
5 予防と早期対応:夫・家庭・支援環境としてできること
おわりに
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はじめに

「出産後は母親が産後うつになる可能性がある」という話は比較的知られていますが、実は父親(あるいはパートナーの男性)にも産後うつ(英語では “paternal postpartum depression”/「男性の産後うつ」)が起こり得るという認識はまだ十分とは言えません。

産後という大きな人生の転換期において、男性も心理的・感情的・環境的なストレスを大きく受け、うつ傾向に陥るケースが一定数報告されています。

今回のコンテンツでは、夫(あるいはこれから父親となる男性)が知っておきたい「男性の産後うつ」について、定義・発症のメカニズム・リスク・症状・影響・さらには夫・家庭としてできる予防・対応策を、最新の日本・海外論文も交えて、できるだけ「まだあまり語られていない視点」も含めて詳しく解説します。

夫として、パートナーと共に健やかに新たな家族の一歩を踏み出すための知見としてご活用ください。

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1 「男性の産後うつ」とは何か?

・定義と背景

  • 一般に「産後うつ(postpartum depression:PPD)」とは、出産後に発症するうつ病エピソードを指し、女性を中心に多く研究されてきました。

  • 男性の場合は「paternal postpartum depression(父親の産後うつ)」として言及され、「子どもが生まれた直後から1年程度までの間に、父親がうつ症状を呈する」ものとして多数の研究が示唆されています。

  • 日本での先行研究では、出産後1か月時点で父親の約11.2%、6か月時点で12.0%が、EPDS‐Jスコア(父親向け評価)でうつ傾向を示したというデータがあります。

  • 海外メタ解析では、父親の産後うつの報告率は8〜13%程度という報告があり、さらに母親が産後うつを発症していた場合、父親のリスクが50%近く上昇するという知見も。

  • つまり「男性だから産後うつにはならない」というわけではなく、むしろ“見えづらい形”で起きているため、気付きにくい・支援されづらいという特徴があります。

・重要性

  • 父親も産後うつを経験すると、自身の健康問題・夫婦関係・育児関係にマイナスの影響を及ぼすことが複数の研究で確認されています。例えば、父親のうつ傾向が育児参加の低下や子どもの行動・発達に関連しているという報告があります。

  • 産まれたばかりの子どもを取り巻く環境は“夫婦+子ども”というシステムであり、そのうちの一人が沈んでいると家族全体のダメージになる可能性があります。母親だけでなく、父親もこの時期のケア対象であるという認識を持つことが非常に重要です。

・なぜ“知られていない”のか?

  • 習慣的に“産後=母体”という図式が強く、父親のメンタルヘルスを産後ケアの中で捉える制度・慣習が遅れているという医学・保健の現状があります。

  • 男性は感情表現・助けを求めることを控える傾向が文化的・社会的に根強く、症状が「怒り・イライラ・リスク行動」という形で出ることも多いため、“うつ”というラベルで気づかれにくいという報告もあります。

  • こうした背景もあり、夫(これから父親になる男性)が「あれ、自分も辛いかも」と自己認識する機会が少ないまま放置されるケースが少なくありません。

 

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2 発症メカニズムとリスク要因

・発症メカニズムの視点

  • ホルモン変動:男性でも妊娠~出産期のパートナーとの心理的・身体的ストレスがホルモン変動を引き起こしうるという研究があります。例えば、父親になる男性ではテストステロン低下・コルチゾル上昇・オキシトシン関係の変化が、子育て・パートナーとの関係性・精神的健康と関連しているという報告があります

  • 睡眠・休息の乱れ:新生児の夜泣き・授乳・生活リズムの崩れは母親だけでなく父親にも睡眠断片・疲労蓄積をもたらし、これはうつの誘因として極めて強力です。

  • 役割変化・期待ギャップ:出産前の「夫・男性としての自分」が、出産後・育児開始後の「父親・家事育児担当」という役割に急速に移行し、“期待通りにできない自分”“時間が取れない自分”“妻に迷惑をかけている自分”という自己否定的認識がうつを引き起こします。

  • 社会的支援・環境の不足:父親用のメンタルケア・相談枠・制度が少ないこと、自分の辛さを言い出しづらい文化・役割があること、夫婦間で“妻の体調優先”“夫は大丈夫”という暗黙の前提があることもリスク要因です。

・主なリスク要因(研究から抽出)

  • 妻/パートナーの産後うつ・心理的不調:母親がうつ傾向にあると、父親のリスクが2~3倍に上昇するというデータ。

  • 過去のうつ・精神疾患歴:男性自身がうつ・不安障害の既往がある場合、産後うつ発症リスクが高まる。

  • 低収入・失業・経済的不安:日本の研究では、世帯収入が低め・失業中の父親のうつ傾向が高かったという報告があります。

  • 不十分な育児参加・家事育児支援:父親が育児・家事参加が少ない、あるいはそれができない環境だとストレスが積み重なります。

  • 新生児の健康問題・入院等:子どもが医療的ケアを必要とする場合、父親の心理的負荷・不安増加が確認されています。

  • 睡眠剥奪・生活変動:夜間対応・育児・家事の増加で睡眠質が低下し、それがうつ症状を誘発する要因になります。

  • 社会的サポートの欠如:父親としてのメンタル支援ネットワークが弱いと感じるほど、うつリスクが上昇という研究が存在します。

・ここだけの“独自視点”

  • 「父親‐母親のホルモン・情緒同期」という観点があります。例えば、夫婦のコルチゾル(ストレスホルモン)レベルの同期やテストステロン低下が、父親の産後うつ・母親との関係質に影響するという研究が出ています(Darby Saxbeら) これは、“妻の産後ストレスを夫も共有して体内レベルで影響を受ける”という視点で、夫だけ独立しているわけではないという理解を深めます。

  • 「役割期待‐現実ギャップモデル」:出産前に抱いた“いい父親になろう”“妻と子どものために頑張ろう”という期待が、実際の生活で「自分だけが家事育児に追われている」「妻のケアばかりで自分の時間がない」「仕事との両立ができない」と感じると、そこに“罪悪感”・“無力感”が生まれやすく、うつへの道をたどりやすいです。これは文化的・日本的にも強く作用します。

  • 「隠れた疲労‐感情抑制モデル」:男性は「サポート側」「問題無し側」として見られがちで、自分の疲れ・不安・孤独を言語化しづらい。結果として“イライラ”“無気力”“集中力低下”という形で現れ、引用されているように“怒り”“リスク行動”“アルコール消費増”として出ることもあります。

    👉以上を踏まると、男性の産後うつは「母親と同じ型で現れるわけではない」ため、ましてや夫として“自分にも起こるかもしれない”という視点を持つことがまず第一歩です。

 

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3 症状・サイン:妻とは異なる男性特有のサイン

・一般的にみられる症状(男性・女性共通部分)

  • 継続的な気分の落ち込み、悲しみ、無力感

  • 興味・喜びの喪失(趣味・仕事・休日などが楽しめない)

  • 集中力低下、決断困難、疲労・体力低下

  • 睡眠障害(寝つきが悪い、眠れても疲れがとれない、逆に過度の睡眠)

  • 食欲変化(低下あるいは過食)

  • 自分の存在価値に関する否定的思考(「自分は役に立っていない」「父親失格かも」)

・男性に出やすい・見逃されがちなサイン

  • 怒り・イライラ・短気になった/衝動的行動が増えた(女性では“涙・落ち込み”などが典型ですが、男性では“怒り”として出やすい)

  • 仕事や趣味に没頭しすぎて家庭・育児を後回しにする、または逆に仕事の効率・集中が極端に落ちる

  • アルコール・ギャンブル・リスク行動(運転の荒さ・喫煙増加)などで“逃避的”な対応を取ることがある。

  • 家族・子ども・妻との距離感を感じ始める、子ども・妻と“関わっているのに楽しめない・つながれない”という無力感

  • 睡眠は取れていても「疲れが取れない」「休んでいても気が晴れない」という主観的疲労感が継続する

  • 自分から相談・助けを求める動きがほとんどなく、逆に「自分が耐えなければならない」「妻を支える側」として自分を犠牲にしやすい

・夫・パートナーとして気づくべきサイン

  • 以前は笑顔で会話していたのに、最近めったに笑っていない/家で無言が増えた

  • 育児・家事分担を進んでやらなくなった、または逆に過剰にやっているが楽しそうではない

  • 「仕事が忙しい」「疲れている」という言い訳がやたら増えて、家で“休んでいる”のに元気がない

  • 夜中・休日にもスマホ・テレビ・ゲームで“現実逃避”的な時間が増えた

  • 妻・子ども・家族に対し「ごめん」「迷惑かけてる」という言葉が増えた、または逆に「俺は大丈夫」「自分でどうにかする」という言葉が増えた

    👉このようなサインを“ちょっと様子がおかしい”ではなく「・気になる・初期段階かもしれない」という視点で捉えることが、早期発見・対応に繋がります。

 

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4 家族・子ども・パートナー関係への影響

・家族機能への影響

  • 父親の産後うつがあると、夫婦関係満足度が低下するという研究があります。パートナーとしての妻の支援能力も低下し、相互支援が回らなくなる構図になりやすいです。

  • 父親のうつ・育児関与低下は、乳幼児期の子どもの行動問題・情緒の乱れ・発達遅延などと関連している報告があります。

  • 家族システムとして「父・母・子」の構成がバランスを欠くと、母親の産後回復にも影響が及ぶことが分かっており、父親のメンタルヘルスは母子ケアと一体で捉えるべきであるという示唆があります。

・妻・パートナーの視点からの影響

  • 妻自身が精神的に負荷を抱えている場合、父親の支援が減少することでさらなるストレスとなり、産後回復の妨げとなる可能性があります。夫婦間で「話ができない・共有できない」という状態になると、感情的な結びつきが希薄になり、母親・父親双方にとって危険なサイクルに陥ります。

  • 父親が自身のうつに気づかず、子ども・妻・家事育児に関われず離れてしまうと、妻に「私一人で支えてる」「頼れない」という孤立感が生まれ、夫婦関係がぎくしゃくすることがあります。

・子どもへの影響

  • 父親の産後うつが子どもにとって長期的なリスク要因となる可能性があります。父親が情緒的に不安定・育児関与が限定的・家庭内の雰囲気が冷え込むと、子どもの発達・行動・情緒の面で影響を受けるという報告があります。

  • また、父親の精神的健康は子どもの“父親との絆・父親モデル”としての機能に直結します。父親が余裕を持って関われることは、子どもの安心・成長・親子関係の質にとって重要です。

・社会的・制度的インパクト

  • 父親のメンタルヘルスを含めた“家族全体の産後ケア”が進まないと、子育て支援・父親支援・母親支援の連携が構築されず、産後ケアの抜け・格差が生じる可能性があります。最近の報道では「夫=サポートする側」という前提が強く、夫自身の支援ニーズが見えづらいという社会的課題が指摘されています。

    👉このように、男性の産後うつは“家族の構造そのものに影響を及ぼす”テーマであり、夫として、そして家庭として軽視できない問題です。

 

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5 予防と早期対応:夫・家庭・支援環境としてできること

・夫自身ができること

  • 自分自身のメンタル状態・疲労・睡眠を定期的に振り返る。「最近仕事が集中できない」「家でぼんやりしてしまう」「笑えない時間が多い」と感じたら、早めに“おかしいかも”と認識すること。

  • パートナーと「どういう変化があったか」「自分がどう感じているか」を定期的に共有する時間を設ける。夫婦で“産後の変化”“自分たちの役割変化”を言葉にすることで、孤立感を減らせます。

  • 睡眠・休息を優先し、育児・家事の分担を積極的に取る。「自分も休まないと妻・子どもを支えられない」との意識を持つ。夜間対応・休日対応を夫が引き受ける時間をつくる。

  • 社会的・友人関係・相談窓口を活用する。父親支援グループ・オンラインコミュニティ・メンタルヘルス相談など“父親も話せる場”を探す。

・家庭・夫婦としてできること

  • 家事・育児分担を“固定役割”ではなく“状況に応じて変える協力体制”として捉える。たとえば、「今夜は私が寝かせる・明日はあなたが授乳補助してゆっくりして」など、互いに「助け合い」の前提を明示する。

  • 妻・子ども・夫という三者を“チーム”として捉え、「父親のメンタルケアも、母親のケアと同じくらい重要だ」という話を家族内で共有する。夫婦2人で支える意識を持つことで、父親側の心理的ハードルが下がります。

  • 定期的に“夫婦のみの時間”を設ける。子どもがいるからと言って二人のコミュニケーションを放置しないこと。感謝・労いの言葉を交わす時間をつくることで、夫の“存在価値”“パートナーとしての役割感”が補強されます。

・専門・制度・社会的支援を知る・活用する

  • 地域の母子保健センター・男性メンタルヘルス支援窓口・産後ケア施設に「父親の産後うつ・メンタルサポート」について相談できるか確認しておきましょう。

  • 医療機関においても、父親向けスクリーニング(例:男性版EPDS)実施が始まっているという報告があります。

  • 会社・職場においても育児休業・フレックスタイム・昼休みの確保など、父親が育児参加・家庭参加しやすい制度があるか確認し、利用できるなら活用を。経済的・時間的余裕がメンタル予防につながります。

  • もし「もう限界かもしれない」「以前と違って何も楽しくない」「子ども・妻・家族に申し訳ない」と感じるなら、早期に専門カウンセリング・メンタルクリニックへ相談を検討してください。放置すると家族関係・子どもの発達・父親自身の健康に影響を及ぼす可能性があります。

・ここだけの“独自視点”

  • 「父親メンタル・チェックリスト」を夫婦で作る。例えば「眠れているか/集中できているか/家で笑っているか/妻と話したいと感じるか/子どもを抱くと距離を感じないか」という5項目を夫婦で月1回共有・振り返る仕組みを設ける。こうした小さな“自己チェック&夫婦共有”が早期気づきに有効です。

  • 「父親役割への問い直しワーク」を夫婦で実施。出産前に「理想の父親像」を夫が書き出し、出産後1〜3か月後に「実際の父親像・感じているギャップ・助けが必要なこと」をパートナーと共有する。ギャップを言語化することが、罪悪感・無力感を軽減します。

  • 「祝福だけでなく変化として捉える習慣化」。出産=ハッピーなイベントという一面だけでなく、「人生の転機・生活変化・役割変化」が起きているという認識を夫婦共に持つことで、夫自身も“変化に巻き込まれる一人”として心構えができます。

    👉以上のように、男性の産後うつを予防・早期発見・早期対応するためには、夫自身・夫婦・社会制度という三方向から備えることがカギとなります。

 

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おわりに

新しい命を迎えるという喜びの一方で、父親である男性もまた、大きな変化と挑戦に直面しています。

男性だからこそ「影響を受けないだろう」「支える側だから大丈夫だろう」という前提は、産後うつのリスクを見逃す原因となります。

今回ご紹介したように、男性の産後うつは決して稀なものではなく、むしろ10人に1人程度という報告も出てきています。

妻・子ども・家庭を支えるためには、まず“自分自身の心と体”に目を向け、「もしもおかしいかも」と感じたら声を上げ、助けを求めることが決して恥ずかしいことではない、という理解を持つことが重要です。

夫として、父親として、家庭の一員として、変化を受け入れ、支え合い、ケアを分かち合う。それが、妻・子ども・そして自分自身の健やかなスタートを支える基盤となります。

どうかこの知見をきっかけに、ご自身とご家族のメンタルヘルスを大切にしてください。

今回も最後まで読んで頂きありがとうございました

参考文献:

  1. White et al. “Prevalence of paternal depression in pregnancy and the postpartum.” Journal of Affective Disorders. 2016.

  2. Abe et al. “The prevalence and risk factors for postpartum depression symptoms in fathers: a prospective birth cohort study in Japan.” Psychiatry and Clinical Neurosciences. 2018.

  3. Marchetti et al. “Postpartum Depression in Men & How to Find Help.” Postpartum Support International. (online) PostpartumDepression.org

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