今回は、産後の抜け毛が止まらない!ホルモンのせい?対策について説明していきます
医療従事者の立場から説明していきますので、是非参考にしてみて下さい!
はじめに
出産後、思いのほか抜け毛が多くなったり、髪のボリュームがなくなったりすると「ずっとこのまま…?」と不安になる方も少なくありません。
しかし実は、ほとんどの方が経験する「自然な体の変化」であり、原因や対策を正しく理解することで、心の負担を軽くしながら髪をケアしていくことができます。
本コンテンツでは、まず目次を示し、その後それぞれの章で「なぜ抜け毛が起きるのか」「ホルモンの関係」「具体的な対策」「いつ相談すべきか」などを順に深掘りします。ぜひ最後までご覧ください。
目次
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抜け毛が止まらないと感じる産後の“タイミングと特徴”
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ホルモン変化がもたらす髪のサイクルの乱れと最新研究
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日常生活でできる“今すぐできる対策” ─栄養・睡眠・頭皮環境の改善
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ケアをワンランク上げる“専門的アプローチ” ─サロン・クリニック・処方の選択肢
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それでも止まらないとき・“見落としがちな異常サイン”と相談のタイミング
おわりに:抜け毛と向き合う産後の心と髪のケア
参考文献
1 抜け毛が止まらないと感じる産後の“タイミングと特徴”
・産後の抜け毛はどれくらいの割合で起こる?
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日本の研究によれば、出産後10~18か月の女性331名のうち、約91.8%が産後の抜け毛(“産後脱毛”)を経験したというデータがあります。
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このことから、かなり多くのママが「抜け毛が止まらない」「いつまで続くんだろう」と感じていることがわかります。
・どの時期に起こりやすいか?
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上記研究では「開始平均2.9 か月」「ピーク5.1 か月」「終息平均8.1 か月」と報告されています。
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美容クリニックの解説でも「出産2~3か月後に始まり、4~6か月でピーク、その後6か月~1年で落ち着くことが多い」とされています。
-つまり、出産直後からではなく、少し時間をおいてから「抜け毛が急に増えた」と感じるケースが一般的です。
・見られる典型的な特徴
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髪を洗ったあとの排水溝にタップリと髪が溜まる
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ブラッシング時・櫛通り時に手に多くの髪が絡まる
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全体的にボリュームが落ちた、分け目が目立ってきた
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前頭部や頭頂部だけではなく、全体に“毛量が少ない”印象になる
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髪質が細くなった、コシが減ったと感じる
・なぜ「止まらない」と感じるのか?
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出産によるホルモンバランスの変化から、髪の成長サイクル(アナゲン=成長期 → カタゲン=移行期 → テロゲン=休止期)に乱れが生じる
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さらに、育児・授乳・睡眠不足・栄養の偏り・ストレスなどが重なりやすいため、抜け毛量が多く感じられ「止まらない」「いつまで続くの?」となりやすい
-研究によると、「長期間の授乳」や「早産・低出生体重児出産」などが産後脱毛の予測要因として挙がっており、抜け毛の継続を感じる背景として見逃せません。
・まとめ
産後の抜け毛は、かなり多くのママが経験しており、出産2~3か月後から始まり、5か月前後でピークを迎え、6か月~1年程度で落ち着くことが一般的です。
とはいえ、人によって抜ける量・回復スピードには個人差があります。「止まらない」と感じる場合、自分だけで悩まずに、原因と対策を知ることが重要です。
2 ホルモン変化がもたらす髪のサイクルの乱れと最新研究
・妊娠期~産後におけるホルモンの動き
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妊娠中は女性ホルモン(特にエストロゲン=雌 性 ホルモン)が著しく上昇し、髪の成長期(アナゲン期)が延長されます。
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出産直後、エストロゲン・プロゲステロン(黄体ホルモン)は急激に低下し、その結果、通常より多くの毛包が一斉にカタゲン→テロゲンへと移行します。
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テロゲン期(休止期)に入った髪は数週間~数か月後に抜け落ちるため、出産後数か月を経て抜け毛が増えるのです。これは「遅延アナゲン放出(delayed anagen release)」としても説明される現象です。
・最新研究が示す「抜け毛を左右する要因」
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日本のクロスセクショナル研究では、304/331名(91.8%)が産後脱毛を経験しており、長期間授乳(12か月以上)および早産が有意な相関因子であったと報告されています。
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このことから、ホルモンの変動だけでなく「授乳期間」「出産時の状況(早産・低出体重)」といった母体・育児環境の要素も髪の抜け毛に影響する可能性があります。
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研究者らは「エストロゲンレベルの低下」「炎症状態」も産後脱毛に関与しうるとしています。
・ホルモン以外で見落とせないポイント
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甲状腺ホルモン異常:産後は甲状腺機能低下/亢進が起こり得、卵巣・甲状腺ホルモンともに髪の成長に影響を及ぼします。古典的研究では正常範囲とされたものの、最新の検査感度・生活習慣の変化を踏まえると“異常ではないが影響あり”の領域で議論されています。
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ストレス・睡眠・栄養:ホルモン変化をきっかけに、育児ストレス・睡眠不足・鉄・亜鉛・タンパク質不足などが後押しをし、抜け毛量を増加させてしまうループになりやすいです。
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頭皮環境の乱れ:ホルモン変化により頭皮の皮脂分泌・水分バランスが変わることもあり、洗髪習慣・シャンプー選び・ヘアスタイルの負荷が影響することもあります。
・“ホルモンのせい?”という問いへの整理
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結論としては、「ホルモンの変化」が主要なトリガーであることは間違いありません。つまり、出産後のエストロゲン低下・ホルモンサイクルの変化が、髪のサイクルを乱す大きな原因です。
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ただし、ホルモンだけが全てではなく「授乳期間の長さ」「早産・出産時の状況」「育児ストレス・睡眠・栄養・頭皮環境」といった複合的な要因が“抜け毛が止まらない”という状況を引き起こしていることが、最新の研究から示唆されています。
-したがって、対策としてはホルモン変化を“待つ”だけでなく、上記の複数要因に目を向けることが重要です。
・研究から抽出した“ポイント”
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約90%以上の産後女性が何らかの抜け毛を経験している。
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授乳期間が長い(12か月以上)ほど抜け毛を経験するリスクが上昇。
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早産や低出生体重児出産も抜け毛リスク上昇と関連。
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原則として放置しても6〜12か月以内に回復傾向を示すが、個人差が大きい。
3 日常生活でできる“今すぐできる対策” ─栄養・睡眠・頭皮環境の改善
産後は何かと慌ただしく、自分のケアは後回しになりがちです。しかし、髪の健康を整えるためには「毎日の習慣」が大きな支えとなります。
ここでは実践しやすい対策を、箇条書きで整理しました。
・栄養面でのアプローチ
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タンパク質をしっかり摂る:髪の主成分はケラチン(タンパク質)なので、肉・魚・豆・卵・乳製品などを意識。
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亜鉛・鉄・ビタミンB群(特にB2・B6)・ビタミンC・シスチンなどを補う:髪の生成・頭皮血流に関与。
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過度なダイエットはNG:産後すぐの体重戻しを急いでカロリーを大幅に制限すると、髪の成長サイクルがさらに乱れやすくなります。
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水分補給・ミネラル補給も忘れずに:授乳中はさらに水分・ミネラルが必要となるため、脱水・栄養不良が抜け毛を促進する恐れがあります。
・睡眠・ストレス対策
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まとめて長く睡眠を取るのが理想だが難しい場合も多いので、質を重視:スマホ使用の自制、寝る前のリラックス習慣などで深い睡眠を確保。
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ストレス軽減を意識:育児は24時間体制となるため、できる範囲で「休息」「交代で負担を減らす」「家族・支援者に頼る」などを取り入れて。
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授乳・育児による体の負荷も“ストレス”と捉える:体が回復期にあると認識し、無理をしすぎないことが髪のケアにも繋がります。
・頭皮・髪の外的環境を整える
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やさしいシャンプーを選ぶ:産後はホルモン変化により頭皮・髪質が変わることもあります。たとえば“アミノ酸系シャンプー”など、低刺激なものを選ぶと良いでしょう。
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洗髪時の負荷を減らす:ゴシゴシ洗い・高温のお湯・同じヘアスタイル(きつめポニーテール等)を長時間続けると毛根に負担をかけます。
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頭皮マッサージや血行促進ケア:やさしく指の腹で頭皮を動かすだけでも、血流改善・毛根活性に繋がる可能性あり。
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乾燥・湿疹・抜け毛箇所の出現時は早めにケアを:頭皮が荒れていると髪の再生サイクルが遅れることも。保湿・抗炎症ケアを。
・生活リズム・育児とのバランス
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母乳授乳・夜間の起床・育児中の不規則な時間割が続くため、「髪の成長=通常3〜4か月目に抜け毛がピーク」というサイクルだと捉えて、焦らないことがポイント。
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自分自身を「育児中・回復期」の身体と捉え、髪がいつものように「静かに育つ環境」を意識して整えることが大切。
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親身になってくれる相談相手・ヘアケアアドバイザー・家族との分担を持つことで、精神的な余裕が出ると抜け毛ケアにも効果的です。
・“今から始められる実践例”
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朝食に「卵+納豆+野菜+果物+牛乳」とバランスを意識
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洗髪後、タオルドライ少し→20分以内に弱風でドライヤー
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夜22時以降はスマホ・テレビを控え、20分のストレッチ&深呼吸
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1日1分、頭皮を指の腹で10回ほど軽くマッサージ
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抜け毛量を毎週チェック(抜け毛の塊、排水溝状況)+増えているか少ないかを自分で把握
4 ケアをワンランク上げる“専門的アプローチ” ─サロン・クリニック・処方の選択肢
日常のケアを続けても「なかなか戻らない」「極端に薄く感じる」という場合には、もう少し専門的なアプローチを検討する時期です。
以下、具体的な選択肢を整理します。
・ヘアサロン/専門美容室でのケア
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頭皮エステ・育毛トリートメントなど「頭皮環境の整備」にフォーカスしたメニューを選択
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出産後はホルモン環境・体調が変わっているため、薬剤(カラー・パーマ・縮毛矯正など)は控えめにし、髪・頭皮へのダメージを避ける
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ヘアスタイル自体を「ボリュームが出やすいカット/分け目を目立たせないスタイル」にすることで、視覚的な印象を改善
・皮膚科・毛髪専門クリニックでの診断・処方
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“Female Androgenetic Alopecia(F AGA)”や“Telogen Effluvium(休止期脱毛)”などと鑑別が必要な場合もあります。
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薬剤(例:外用ミノキシジル、内服治療、ホルモン調整薬など)の選択肢もあり、産後・授乳中の使用可否を医師に確認することが大切
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頭皮の検査(ダーモスコープ・毛周期測定など)を行い、抜け毛以外の原因(甲状腺疾患・鉄欠乏・自己免疫性脱毛症など)を除外する。日本の試験でも「産後脱毛の客観的評価」が動き始めています。
・補助的な機器・サプリメント・育毛剤(育児中は慎重に)
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頭皮レーザー・LED・マイクロニードルなど最新機器を使った育毛ケアもありますが、産後・授乳中の体調変化を考慮して、実績・安全性のあるクリニックを選択すべきです。
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栄養補助食品・ヘアサプリ・育毛剤も人気ですが、授乳中の使用制限・エビデンス不足の製品が多いため、必ず医師・薬剤師に相談してから使用しましょう。
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日本では「アミノ酸系シャンプー+育毛ローション+頭皮マッサージ」を併用して経過を見るケアが標準的に紹介されています。
・どのような場合に専門ケアを検討するか?(チェックリスト)
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出産から1年を超えても抜け毛が明らかに多く、髪のボリュームが戻らないと感じる
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髪の一部が明らかに薄くなってきており、分け目・頭頂部が目立つ
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頭皮に赤み・かゆみ・湿疹などがある、痛みがある
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授乳・育児とは別に、甲状腺・鉄欠乏・自己免疫疾患などの既往がある
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髪を引っ張ると“根元からするっと抜ける”など明らかな抜け方がある
👉このような場合は、「自然な産後変化」として経過観察するだけではなく、早めの専門相談が安心です。
5 それでも止まらないとき・“見落としがちな異常サイン”と相談のタイミング
・“止まらない”と感じたら考えたい異常原因
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甲状腺機能異常(甲状腺機能低下・亢進)による脱毛や髪質変化
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鉄欠乏性貧血・ビタミンD欠乏などの栄養状態不良
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自己免疫性脱毛症(例:Alopecia Areata)や慢性皮膚疾患による脱毛
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髪を強く引っ張るヘアスタイル・化学処理・頭皮への外的ストレスによる“牽引性脱毛”
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長期間・大量に続く授乳・産後うつ・慢性的な睡眠不足による慢性ストレス負荷
・相談のタイミング(目安)
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出産から12か月経っても抜け毛量が多い、髪の薄さ・ボリューム低下が回復しない
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髪が部分的に極端に薄くなっていて、明らかな“頭皮透け”が出ている
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頭皮に湿疹・びらん・強いかゆみ・痛みなどがある
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体調不良(だるさ・体重減少・動悸・手足の冷えなど)が伴い、髪以外の体調不良も感じる
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髪の抜け方が「ブラシを通したら束で抜ける」「自分でも明らかに抜け毛が変化した」と感じる
・相談時に伝えると良い情報
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出産・授乳の期間、時期、状況(早産・低出生体重児の有無)
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抜け毛が気になり始めた時期、ピークを感じた時期
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髪以外の症状(疲れやすさ・眠れなさ・貧血・甲状腺の症状など)
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栄養・睡眠・育児状況(夜間授乳回数・睡眠時間・食事のバランスなど)
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これまで行ったヘアケア(カラー・パーマ・ヘアスタイル)や育毛対策
👉これらを整理して医師・毛髪専門家に相談することで、原因を共有しやすくなります。
おわりに
産後の抜け毛は「あなた一人の問題」ではなく、多くのママが経験している自然な身体の変化のひとつです。
ホルモンの変化が大きな原因であることは確かですが、「ホルモンのせいだから仕方ない」と諦める必要はありません。
栄養・睡眠・頭皮環境・育児ストレスといった“複合的な生活背景”を整えることで、髪の回復を促す力を高めることができます。
もしも1年を過ぎても抜け毛が収まらない、髪のボリュームが明らかに減ったと感じるときは、専門機関への相談を検討しましょう。
髪の健康は「見た目」のみならず、ママ自身の気持ち・日常の活力にも直結します。
それでは、ママの髪も心も、少しずつでも安心できる毎日となりますように。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました。
参考文献
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Hirose A, et al. Investigation of exacerbating factors for postpartum hair loss: a questionnaire-based cross-sectional study. Women’s Dermatologic Society. 2023.
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臨床試験登録:産後脱毛の客観的評価による立証と影響を及ぼす要因の解明 (UMIN CTR R000057621).
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『Postpartum Hair Loss: Causes & Prevention』(英語)https://www.hiro-clinic.or.jp/nipt/hair-loss/?lang=en ヒロクリニック
