今回は、息切れの正体は心臓?それとも肺?見分けるポイントについて説明していきます
心リハ指導士の立場から説明していきますので、是非参考にしてみて下さい!
目次
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はじめに
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息切れ(呼吸困難)の一般像と鑑別の枠組み
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心原性息切れの特徴とメカニズム
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肺・呼吸器起因の息切れの特徴とメカニズム
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見分けるための診察・検査のポイント
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混合型・非典型例・注意点
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おわりに
はじめに
息切れ(医学的には呼吸困難:dyspnea)は、多くの人が経験する症状ですが、その原因は非常に多岐に渡ります。
最も頻度が高いのが心臓(心血管系)起因と肺・呼吸器系起因ですが、それ以外にも貧血、代謝異常、神経筋疾患、心理的要因なども関与し得ます。
臨床では、「この息切れは心臓から来ているか?あるいは肺から来ているか?」をできるだけ早期に見分けることが、診断・治療の方向性を決めるうえで非常に重要です。
特に救急・初診の場面では、迅速な鑑別が必要となることもあります。
本稿では、両者の特徴・メカニズム・鑑別ポイントを整理しつつ、実臨床で使えるチェックリストと注意点も提示します。
読者の方が「自分の息切れは、まず心臓性か肺性かを疑っていいか?」の目安を得られるようになることを目指します。
息切れ(呼吸困難)の一般像と鑑別の枠組み
まず、息切れという症状を捉える枠組みを持っておくことが大切です。
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定義・主訴の捉え方
・「呼吸が苦しい」「息が足りない」「胸に圧迫感がある」など様々な表現
・発症様式(急性か慢性か)、誘因(運動時、安静時、夜間など)、可逆性・改善因子を聞く -
主要な鑑別カテゴリ
・心血管系(心不全・虚血性心疾患・弁膜症・不整脈など)
・肺・呼吸器系(慢性閉塞性肺疾患、喘息、間質性肺炎、肺血栓塞栓症など)
・その他(貧血・甲状腺機能異常・神経筋疾患・心理性など) -
重複あるいは併存の可能性
・心疾患と肺疾患が同時に存在する例も決して少なくない
・たとえば、慢性閉塞性肺疾患(COPD)と心不全が併存するケースでは症状や検査所見が入り混じることもある -
緊急性を判断する手がかり
・急激な発症・進行、胸痛・発熱・咯血など併発症状 → 緊急性高
・浮腫・夜間呼吸困難・胸部X線で肺うっ血像など → 心原性を強く疑う要素
👉このような枠組みをもとに、以下で心原性・肺原性それぞれの特徴を詳しく見ていきます。
心原性息切れの特徴とメカニズム
心臓が原因で息切れを引き起こす場合、どのような特徴・病態が関与するかを整理します。
主なメカニズム
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ポンプ機能低下/心拍出量不足
・左室機能低下や弁膜症、狭心症などで血液を十分に前方に送り出せず、酸素供給不足 → 呼吸補償として呼吸数増加 -
うっ血性心不全・肺うっ血
・左心不全が進むと肺に水分が滞留し、肺胞間質・肺胞内に水がたまる → ガス交換が阻害され、息苦しさ・呼吸困難を引き起こす
・いわゆる「肺水腫」が典型例。 -
負荷負担時の増悪
・階段・坂道・運動時に心拍数・血圧要求が上がる状況で酸素需給ギャップが目立つ
・夜間・臥位になることで心臓前負荷が増し、夜間呼吸困難(paroxysmal nocturnal dyspnea:PND)などを呈しやすい -
心房性不整脈・心拍制御異常
・脈拍数が極端に速く・遅くなると効率的な拍出が妨げられ、息切れが起こる
・例えば心房細動や頻脈性不整脈など
心原性息切れに特徴的な所見・症状
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起坐呼吸・夜間呼吸困難
・横になると息苦しくなり、枕を高くして寝たり座って寝たくなる
・夜間に突然目覚めて息苦しくなる PND(夜間発作性呼吸困難) -
むくみ(浮腫)・体重増加
・末梢静脈うっ滞・腎臓の水貯留作用により浮腫・体重増加 -
聴診所見
・心雑音(弁膜疾患の存在示唆)
・Ⅲ音(「ガラガラ音」)・Ⅳ音
・肺野で「ラ音(Bibasal crackles)」=肺水腫の兆候を示すことあり -
画像・検査
・胸部 X 線で心拡大・肺うっ血像・胸水所見
・BNP / NT-proBNP 上昇
・心エコーで左室収縮能・拡張能・弁機能評価
・心電図で虚血・不整脈所見
👉これらの所見を組み合わせて、「この息切れは心臓由来かもしれない」と仮説を立てていきます。
肺・呼吸器起因の息切れの特徴とメカニズム
肺・呼吸器系の異常が原因で息切れを起こす場合、その特徴やメカニズムを以下に整理します。
主なメカニズム
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通気障害・換気機能低下
・気道狭窄(喘息・COPD)、気道炎症、気管支閉塞など → 吸入・呼気が阻害され呼吸運動が効率悪化 -
ガス交換能力低下
・間質性肺疾患・肺線維症などでは肺胞壁が硬くなる・拡散能が低下
・肺胞表面積減少・肺胞キャッピング異常 -
換気血流不均衡
・肺血栓塞栓症・肺血管障害で血流が遮断されると換気されても血液が流れない部分ができる
・肺高血圧・肺循環障害も影響 -
換気筋疲労/呼吸補助筋の限界
・重症呼吸器疾患では呼吸筋が疲労し、呼吸作業量が上がる
肺原性息切れに特徴的な所見・症状
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咳・痰・喘鳴
・咳・痰が慢性的にある/気管支炎・喘息の症状を伴うケース
・呼吸音に「ヒューヒュー」「ぜーぜー」音(ラ音・wheezing) -
呼気延長・呼吸音異常
・呼気時息を吐き切れない感、呼気時間が長くなる -
発作性増悪傾向
・季節変動・アレルギー・寒冷刺激・ウイルス感染などで症状悪化 -
労作時限界・進行性増加
・安静時は多少保たれていても、少し動くとすぐ息切れ -
画像・検査
・胸部 X 線/肺 CT で肺野陰影・線維化所見・肺気腫病変など
・呼吸機能検査(肺活量、1秒量、拡散能検査など)
・動脈血ガス/酸素分圧・CO₂分圧異常
・肺動脈圧上昇・肺血栓所見なども考慮
👉肺性呼吸困難は、呼吸器症状(咳・痰)や呼吸音所見、呼吸機能異常を伴いやすいという点が手がかりになります。
見分けるための診察・検査のポイント
心原性 or 肺原性を見分けるためには、問診・身体所見・検査を組み合わせて判断するアプローチが不可欠です。
問診で注目すべきポイント
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発症様式
・急性発症(数時間〜数日以内) → 心不全、肺水腫、肺塞栓症の可能性
・慢性進行型(数週間~数月) → 肺線維症、慢性肺疾患、慢性心不全 -
誘因・軽減因子
・運動時・階段・坂道時 → 両者共通だが、心原性は立ち止まるとやや改善することがある
・安静時発症・屈む・横になると悪化(起坐呼吸) → 心原性を疑う
・呼吸困難が夜間・夜中に悪化(PND) → 心不全性の特徴 -
併発症状
・浮腫、体重増加、夜間の頻尿 → 心原性を示唆
・咳・痰・喘鳴・発熱・呼吸音異常 → 肺原性を示唆
・胸痛・動悸・めまいなど心血管関連症状 -
既往歴・リスク要因
・高血圧・狭心症・心筋梗塞・弁膜症 など → 心原性リスク
・喫煙歴・慢性呼吸器疾患・職業性曝露など → 肺原性リスク
身体所見での手がかり
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浮腫・静脈うっ滞所見
・頸静脈怒張、下肢浮腫、肝うっ血徴候 → 心原性支持所見 -
呼吸音所見
・肺底部ラ音(クラックル) → 肺うっ血、心不全に伴う肺水腫の所見
・wheezing(ぜーぜー音) → 気管支収縮性病変
・呼吸音減弱・捻髪音など → 肺線維化、間質性肺炎 -
呼吸数・頻呼吸
・過呼吸傾向・早呼吸はどちらにも起こりうるが、ガス交換異常を示す手がかり -
チアノーゼ・末梢冷感
・末梢循環不良を伴うことあり -
下腿静脈所見、肝頸部などのうっ血サイン
検査での鑑別ポイント
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胸部 X 線 / 胸部 CT
・心拡大・肺うっ血・胸水 → 心原性傾向
・肺野の線維化・突出陰影・肺気腫所見 → 肺性傾向
・肺塞栓疑い時には胸部 CT(造影) -
心電図・心エコー
・心電図で虚血・不整脈所見があれば心原性疑う根拠
・心エコーで左室/右室機能、弁機能、心腔構造などを評価 -
呼吸機能検査
・1秒率(FEV₁/FVC)、肺活量、拡散能(DLCO)など → 肺機能異常を定量的に評価 -
BNP / NT-proBNP
・心不全の指標として信頼性あり。上昇傾向は心原性可能性を強める -
動脈血ガス / 酸素化指標
・低酸素血症・高 CO₂ 血など、肺性要因・換気不全の兆候を探る -
Dyspnea Differentiation Index (DDI)、PEF(ピーク呼気流速)
・PEF や DDI を用いた研究では、呼吸器 versus 心疾患の鑑別に有用性を示した報告あり
・肺超音波(Lung USG)と DDI を併用した研究では、感度・特異度両方で高い鑑別能を示したという報告もある
👉これらを総合的に判断することで、「この息切れは心臓起因か肺起因か」という仮説を立て、適切な専門診療方向に導くことが可能です。
混合型・非典型例・注意点
鑑別は必ずしも白黒つくものではなく、混合起因や非典型例も存在します。
以下に注意点と対処策を示します。
混合型ケース
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心疾患+肺疾患併存例
・例えば心不全患者が COPD を併発しているケース。両者の症状が相互に影響
・こういう場合、どちらか単一に治療するだけでは改善が不十分 -
肺高血圧・肺性心
・肺性肺高血圧 → 右心負荷 → 右心機能低下 → 呼吸困難を増悪化
・Cor pulmonale(肺性心)として、肺起因から心への負荷が進むパターンもあり得る
非典型例・見落としやすいケース
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心因性・過呼吸
・身体的異常所見が乏しく、呼吸困難感のみを訴える例
・検査で重大所見がなければ、精神・ストレス起因の可能性も念頭に -
貧血・甲状腺機能異常など全身疾患
・酸素運搬能低下(赤血球数低下など) → 息切れを引き起こす
・代謝亢進(甲状腺機能亢進など) → 呼吸要求増大 -
心筋・心膜・胸水・肺血管系のまれな疾患
・肺血栓塞栓症、間質性肺炎、肺動脈性高血圧、間質性心筋炎など
対処のポイント
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仮説を捨てずに柔軟に評価を進める
・最初の仮説が外れた場合、他因を探すマインドを持つ -
フォローアップ評価・追加検査の活用
・時間経過観察、治療反応を見る中で原因を絞る -
専門科への相談
・循環器内科・呼吸器内科両面からのアプローチ
・必要時には総合内科・呼吸器検査センター・心臓検査センターへの紹介 -
患者教育・予防意識
・症状悪化時の受診タイミングを患者にも共有
・生活習慣改善(禁煙・体重管理・運動など)が、どちらの系統にも好影響を与える
おわりに
息切れは、日常的ではあるものの、その“正体”を見誤ると重篤な疾患を見落とす可能性があります。
心原性・肺原性双方の原因が考えられ、併存例・非典型例も多く存在するため、問診・身体所見・検査を組み合わせて慎重に評価する必要があります。
本稿で示した見分けるためのポイント(発症様式、併発症状、聴診所見、画像・検査所見など)をもとに、息切れを経験する方も、医療従事者も初期の仮説を立てやすくなります。
最終的には、正しい診断と適切な治療を受けるために、早めの受診・専門医相談が不可欠です。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました
参考文献
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Differentiating Cardiac and Pulmonary Causes of Dyspnea — 総説論文、超音波も含めた鑑別手法を紹介
-
The Differential Diagnosis of Dyspnea — 呼吸困難の鑑別全体を扱った論文
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Assessment of Breathlessness: a cardiologist’s perspective — 循環器観点からの息切れ評価レビュー( ERSnet Publications