今回はALSのリハビリテーションの説明をしていきます。
はじめに
ALS のリハビリテーション治療は,対症療法の 1 つとして位置づけられています。
患者様が可能な限り自立した生活を送ることができ、quality of life(QOL)を保てるように、リハビリテーションでは発症早期から終末期まで、患者様の機能障害とその変化を評価し,経時的にゴールとプログラム設定・見直しを行いながら,運動療法や呼吸理学療法,福祉用具や機器の導入,介助指導などを行います。
呼吸障害や摂食・嚥下機能障害に起因する栄養障害は生命予後に直結し、コミュニケーション障害は患者や介護者の QOL 低下につながる.呼吸や栄養管理・予後に関する患者の意思決定は他職種と情報共有が欠かせません。
ALSとは?
身体を動かすのに.必要な筋肉が徐々に痩せていき、力が入らなくなる進行性の難病です。
ALSの機能障害
運動障害のうち、上肢が障害されると握力低下や手の筋萎縮、細かい動作のやりにくさを自覚してきます。
下肢の障害によりつまずきやすさや易転倒性、 階段昇降の困難さ、歩行速度の低下が生じてきます。
また、こむら返りや易疲労性も生じ、球麻痺症状により構音障害(呂律のまわりにくさ、声が出しにくくなる,声質の変化)、嚥下障害(飲み込みにくさ、咀嚼のしにくさ、流延)を呈します。
.呼吸筋障害により頻呼吸、浅呼吸、咳嗽力の低下、奇異呼吸、最大吸気時の胸郭拡大の低下がみられます。
随伴症状への対応
1、疼痛
有痛性筋痙攣、痙縮、拘縮、不動、圧迫、精神的要因を考慮することが大事です。
拘縮・不動・圧迫・痙縮で筋骨格系に生じる疼痛には、マッサージや関節可動域訓練、ポジショニングなどが対処方法となります。
2、流涎
低圧持続吸引器の使用を勧めることがありますが, 粘稠痰では使用が難しいのが現状です。
3、栄養障害
外来診療において,むせや窒息、水分補給、誤嚥、体重、食形態の変更の管理は経口摂取期間を有意に延長することが示されています。
胃瘻造設時期にエビデンスはなく,現在推奨されているのは
1食形態・食事時間の調整を行っ ても栄養・水分管理が困難になる前
2体重が病前に比して10%以上減少する前
3食事による患者 ・ 介護者の疲 労が強な前
患者様が胃瘻造設を希望せずに、経口摂取を継続する際には、食形態や食事姿勢に関するアドバイ スや介助方法指導を行います。
4、コミュニケーション障害・ 構音障害
重度の構音障害は、患者の QOL に多大な影響 を与えること、患者様が自立してコミュニケー ションをとれることは介護者自身の QOL に影響す る可能性があることが報告されています。
コミュニ ケーション手段の検討・確立は患者の療養において重要な課題となります。
機能喪失に伴い、コミュケーション補助手段や機器を用いても完全閉じ込め状態(TLS)に至ることもあります。
意思疎通が可能なうちに、さまざまなコミュニケーション手段を試すことができればよいが、その時点では患者が試 用を望まず,受け入れ難いことがあります。
そのため、コミュニケーション機器の選択や導入時期は一 様ではなく、個別の検討や対応を要することが大事です。
5、不安・抑うつ
患者の抑うつ状態は10~60%程度にみられます。
ALSの告知後や嚥下障害、呼吸障害の出現時期に生じやすいと言われています。
また,不安は診断時期に認めやすく、介護者にもうつ症状の合併がみられることがあります。
不安・抑うつが患者や家族の言動や様子から疑われた際にはリハビリテーションサイドからも主治医に情報提供を行うことが大事になってきます。
症状の進行に応じた対応
ALS の病期についての対応を以下の表に示します。
ストレッチと関節可動域訓練はすべての病期で行えれる、標準的な運動となっています。
終わりに
ALSの方のリハビリテーションの治療は、疾患の重症度が高くなるにつれて、治療的介入よりも、緩和ケアとしての役割が増します。
ALSの患者様と家族様の治療や療養の併走者としてリハビリテーションスタッフは関わります。
リハビリテーションスタッフは、発症から終末期まで患者様のゴールに即したシームレスな介入が求められることでしょう。