今回は、眠れない夜、泣き止まない赤ちゃん…私だけつらい?の説明をしていきます
医療従事者の立場から説明していきますので、是非参考にしてみて下さい!
目次
はじめに
1 「眠れない夜・泣き止まない赤ちゃん」が何を意味するのか?
2 ママの身体・ホルモン・眠りの仕組みにもたらされる変化
3 赤ちゃんの泣きと夜間覚醒がママのメンタル・身体に与える影響
4 「私だけつらいの?」と感じた時のサインとその見抜き方
5 家族・サポート環境でできる具体的な対策と心構え
おわりに
――――――――――
はじめに
夜中に赤ちゃんの泣き声で目が覚め、眠った気がしないまま朝を迎える――これが毎日となれば、「私だけこんなにつらいのか」という孤独な気持ちが湧いてきて当然です。
出産直後から続く、夜間の育児対応・頻繁な授乳・赤ちゃんの泣き止まない時間帯・昼夜逆転のような生活リズムの崩れは、ママの身体も心も想像以上に消耗させます。
しかも、こうした状況が長引くと、単なる「疲れ」以上に、メンタルヘルスの問題(例:産後うつ、産後不眠、慢性疲労)へと進展する可能性があります。
実際、ママの睡眠質の低下と産後うつとの強い関連性が多くの研究で示されています。
このコンテンツでは、「眠れない夜、泣き止まない赤ちゃん…私だけつらいの?」という問いを軸に、ママが感じている“つらさ”が決して一人だけのものではないと認識し、身体・眠り・赤ちゃんとのやりとり・家族環境という多面的視点から整理し、夫・パートナー・支援者としても理解できるように解説します。
新生児期・乳児期の子育ては短期間に見えますが、ママの身体と心には大きな負荷が掛かる「変化の期間」です。どうか一人で抱え込まず、周りと“つらさを共有できる視点”を持ちましょう。
――――――――
1 「眠れない夜・泣き止まない赤ちゃん」が何を意味するのか?
まず、ママが経験している「眠れない夜」「泣き止まない赤ちゃん」という出来事それぞれが、どんな意味・背景を持つのかを整理します。
・眠れない夜とは
-
新生児~乳児期には、赤ちゃんの夜間覚醒・頻回授乳・寝付きの悪さ・昼夜逆転のサイクルが普通に起こります。研究によると、産後5か月時点でも「7時間未満の睡眠」であったママが62%に上ったという報告があります。
-
睡眠時間だけでなく、「寝つき」「中途覚醒」「早朝覚醒」「睡眠の深さ」「昼間の眠気・休息感」が重要です。質の低い睡眠が続くと、体力・精神力ともに減少します。
-
ただし「眠れない=ママとして失格」というわけではありません。むしろこの眠りの乱れ・回復不能な疲労状態こそ、ママの“助けが必要”というサインであると捉えることが大切です。
・泣き止まない赤ちゃんとは
-
泣くことは赤ちゃんの基本的なコミュニケーションです。夜泣き・昼夜逆転・なかなか寝付かないというのは、発達の範囲内で多く見られます。たとえば、赤ちゃんの泣き・寝かしつけ・夜間覚醒と母親の「困った・つらい」と感じるスコアには強い関連があるという研究があります。
-
ただし、「ママが感じるつらさ=赤ちゃんの泣き止まない時間だけ」という単純なものではありません。重要なのはママがどれだけ“助けられているか”“休息できているか”“自分をケアできているか”という環境的・心理的背景です。
・この組み合わせが意味するもの
-
眠れない夜と泣き止まない赤ちゃん、この二つが重なることでママの“回復可能な疲労”を超えて、“慢性疲労・心理的負荷・睡眠障害・メンタル不調”へと進む可能性が高まります。たとえば、睡眠の質が低いことは産後うつのオッズ比を3.34倍に上げたという研究があります。
-
また、ママの睡眠の質が低いと、母–乳児相互作用や母親の感受性(母親が赤ちゃんのサインを察知し反応する能力)が低下するという研究もあります。
-
つまり、「私だけつらいの?」というママの問いに対して、答えは“いいえ、一人ではありません。そして“つらさ”には明確なメカニズム・背景があり支援可能です”ということです。
この章で理解しておきたいのは、赤ちゃんの泣きと夜間覚醒=“育児の現実”である一方、ママの睡眠・休息・サポート環境の状態が“つらさの分岐点”になるという点です。ママ自身もパートナーも、「この疲れ・このつらさが普通の疲れか、進行性のものか」を見極める意識を持つことが第一歩です。
――――――――
2 ママの身体・ホルモン・眠りの仕組みにもたらされる変化
出産と育児開始期には、ママの身体と眠り、ホルモンという“眠れない夜・泣き止まない赤ちゃん”の背景にある仕組みが大きく関わっています。
以下にその主な変化を整理します。
・ホルモン・生理的変化
-
出産後、エストロゲンやプロゲステロンの急激な低下、プロラクチン・オキシトシン・コルチゾルの変動などが起こります。これらは睡眠–覚醒リズム、気分調整、ストレス反応に直接影響します。たとえば、出産後のコルチゾル値上昇が睡眠や情緒に関連するという報告があります。
-
授乳期にはプロラクチンやオキシトシンの影響で、夜間覚醒が助長されるケースがあります。また、骨盤・腹壁・関節・筋肉が変化している期間でもあるため、痛み・不快感・寝苦しさが増すことがあります。
・睡眠–覚醒サイクルと眠りの質の低下
-
新生児期~乳児期は、赤ちゃん自身が昼夜の区別をまだ持たないため、夜間覚醒・昼寝・頻回授乳が通常です。こうした不規則なリズムが、ママの体内時計にも影響を及ぼします。
-
研究では、「睡眠中の中断(WASO:寝付き後中途覚醒分)」が52分以上あったママでは、授乳・子どもとの遊び相互作用の中で母親の感受性が低下したという報告があります。
-
「睡眠時間が短い・寝ているのに疲れが取れない・昼間もぼんやり」という状態が長く続く場合、単なる育児疲れではなく“睡眠負債”が蓄積している可能性があります。
・身体的・回復リソースの枯渇
-
出産そのものが、筋肉・骨盤・腹壁・泌乳器官など多くの身体リソースを使っています。育児対応(抱っこ・授乳・寝かしつけ)も負荷が高く、ママの身体回復と育児対応が同時に進行しているという状況です。
-
睡眠の断片化・夜間対応の継続は免疫力低下・疲労回復能力の低下に繋がります。しかも、ママが「少し休もう」と思っても“赤ちゃん泣いたらどうしよう”という緊張状態が解除されにくく、休息そのもの質が落ちてしまうことがあります。
・心理的・生理的相互作用
-
睡眠質の低下・ホルモン変動・育児負荷が絡み合い、気分の落ち込み・イライラ・焦燥・自己肯定感の低下が生じやすくなります。研究では、睡眠質の低下が産後うつ症状と強く関連があると示されています。
-
また、赤ちゃんとのやりとり(泣き・夜間覚醒)が続くほど、ママの“ストレスホルモン”反応が高まり、疲労回復・情緒安定にとって不利になるという研究もあります。
この章のポイントは、赤ちゃんの泣きや夜間対応だけを“育児だから仕方ない”と片づけないことです。ママの身体・眠り・ホルモンは“変化の最中”にあり、その変化が眠れない夜・泣き止まない赤ちゃんという現象の背後では、ママが“回復モードではなく閾値超えモード”に入っている可能性があります。夫・支援者としては「眠れていないようだね」「一緒に横になろうか」と、休息・代替ケアの提供を意識しましょう。
――――――――
3 赤ちゃんの泣きと夜間覚醒がママのメンタル・身体に与える影響
夜間覚醒・泣き止まない赤ちゃんという現象は、ママ自身のメンタル・身体・育児・家庭環境にさまざまな影響を及ぼします。
ここではその影響を整理します。
・ママのメンタルヘルスへの影響
-
赤ちゃんの夜間覚醒や寝つきの悪さが多いと、ママの産後うつ・不安・ストレスのリスクが上昇することが多くの研究で示されています。例として、母親の睡眠問題と産後うつの関連では、睡眠質の低下はうつ症状オッズ比3.34というデータもあります。
-
夜中に何度も起きる→睡眠断片化、それが日中の疲労、イライラ、集中力低下、自己肯定感喪失を招き、結果として「私はダメなママかもしれない」という思考を助長し、メンタル状態が悪化するというメカニズムがあります。
-
また、赤ちゃんの泣きが続くとママの“無力感”“コントロールできない感”“子どものために頑張っているけど楽しくない感”などが強まり、それが心理的疲弊・メンタルヘルス低下につながることがあります。
・ママ–赤ちゃん相互作用・育児関係への影響
-
ママの睡眠質・疲労が高まるほど、母–乳児相互作用(母が赤ちゃんのサインを察し反応する力)が低下するという報告があります。たとえば、睡眠断片化の多かったママでは、遊び中の母親の感受性が時間経過とともに低下したという研究があります。
-
赤ちゃんが泣き続ける・なかなか寝ない・授乳が難しいといった状況では、ママは“育児=こなすもの”に変わってしまい、「抱っこしても泣く」「寝かしつけてもすぐ起きる」「私が休めない」という構図に陥りやすいです。これはママの疲労や負荷をさらに拡大させます。
・夫婦・家庭関係への影響
-
夜間対応の偏り(例えばママだけ夜中起きる/夫が休めていない)が続くと、夫婦間に“気まずさ”“ねたみ”“距離”が生まれやすくなります。夫・パートナーが「眠そうだね」「大丈夫?」と気づき、その上で「今夜は私が見てるから休んでて」と言えるかどうかが、ママの回復軌道に関わります。
-
ママが疲れ・不安・孤独感を抱えていると、子どもを抱いた時の喜び・つながり感が薄れ“やらなきゃだけど楽しめない”という状況に陥ると、育児の質・家族の安心感にも影響します。
・長期的リスク・回復の遅れ
-
睡眠質の回復が遅れたり、ママが休めずに慢性的な疲労・メンタル不調を抱えたまま育児期を進めると、産後うつだけでなく“育児燃え尽き症候群”・“母子関係の質の低下”・“乳児・幼児期の発達リスク”への影響も懸念されます。研究では、赤ちゃんの泣きや寝かしつけ困難が母親の情緒に長期的に影響を与える可能性が示唆されています。
この章で重要なのは、「泣き止まない赤ちゃん」「眠れない夜」が単なる“今日の育児あるある”ではなく、ママの回復力・休息量・サポート体制のバロメーターであるという認識です。そして、夫・家庭として「どう支えるか」「どう環境を整えるか」を意図的に考えることで、つらさの進行を防げるという点も見逃さないでください。
――――――――
4 「私だけつらいの?」と感じた時のサインとその見抜き方
育児初期のママは「自分だけこんなにつらいのかな」「皆はもっと余裕があるのかな」と思いがちです。
ここでは、ママ自身および夫・支援者が“見逃しがちなサイン”を整理します。
・本人が気づきにくいサイン
-
日常的に「眠りたいのに眠れない」「ぼーっとしてしまう」「起きても疲れが取れない」という言葉が出る。
-
赤ちゃんを抱いていても“楽しめない”“心からニコッとできない”“泣いてもどうしていいか分からない”という感覚が増える。
-
子どもの寝付き・泣き・授乳・家事・自分の休息という“ルーチンの回し方”に余裕や変化がなく、とにかく“こなすこと”に集中してしまっている。
-
趣味・友人・運動・自分の時間が“後回し”になっており、「いつから私がこんなに時間がなかったんだろう」「子どもが寝たら寝なきゃという思いばかり」など、自己の時間感覚・自分らしさが薄れている。
-
「夫/パートナーに迷惑かけてる」「どうせ私がしなきゃ」という罪悪感や自己否定の思考が増える。
・夫・支援者がキャッチすべきサイン
-
ママの表情が疲れてはいるが「大丈夫」と言っている。言葉では「大丈夫」でも目の奥・笑顔の質が落ちていたり、視線が遠かったりする。
-
ママが泣いた後、すぐに「別に…」と話題を変えたりスマホを手に取ったりして、“感情を置き去りにしている”ような様子。
-
夜間や朝にママが「起きるのがつらい」「休む時間が取れてない」と言うが、夫・支援者が「大丈夫?」だけで終わってしまっている。
-
家事・育児・休息の分担が偏っていて、ママが「休む」ための仕組みがない。「休んでて」という言葉が形だけになっていたり、実際に休めていなかったりする。
-
ママが「子どもに申し訳ない」と言ったり、「こんなじゃダメだ」と自分を責めたりする傾向が強い。
・“ここだけの視点”チェックリスト(夫・支援者用)
-
① 今週、ママがまとまった30分以上の休息を取れた回数は?
-
② 夜間対応(授乳・おむつ替え)の回数や時間を把握し、“ママだけ集中している”状態ではないか?
-
③ ママの“笑顔”・“話しかける回数”・“子どもを抱く時間”の質が以前と比べてどうか?
-
④ ママが趣味・友人・運動・外出など“自分の時間”を取れているか?
-
⑤ ママが「大丈夫」「頑張るね」と言うけれど、実際には身体・表情・声のトーン・反応に“楽しめていない感じ”がないか?
このような視点を夫・支援者が意識することで、ママの「私だけつらいの?」と思う内的世界を言語化し、支援への第一歩を踏み出せます。ママ自身も「つらい」ではなく「この状況をどう変えられるか」という視点を持つことが、孤立感を減らす鍵です。
――――――――
5 家族・サポート環境でできる具体的な対策と心構え
「眠れない夜・泣き止まない赤ちゃん」という状況に対し、ママだけで頑張るのではなく、家族・夫・支援者が共同体として対応することが回復を早めます。
以下、実践的な対策と心構えを整理します。
・具体的な対策
-
夜間交代・助け合いの仕組みをつくる:例えば夫・パートナーが「今夜2時間、私が見てるから横になってて」「午前中、実家に来てもらって休んでて」といった“休息確保枠”を明示する。
-
赤ちゃんの夜間覚醒・泣き止まない時間帯に備え、予備プランを家族で決めておく:祖父母・ベビーシッター・短時間託児など“ママだけが呼ばれる”体制を減らす。
-
睡眠環境・休息環境を整える:ママが眠れる時にすぐ眠れる環境(照明/音/温度)を整え、昼寝可能な時間帯を作る。夫・パートナーが赤ちゃんを一時的に見て、ママが15~30分でも仮眠できるよう支援。
-
泣き止まない赤ちゃんへの対応戦略を知る:赤ちゃんの泣きが続く=ママの“別の助け”が必要だという認識を持つ。例えば、抱っこ以外にバウンサー・おんぶ・環境音・専門家相談などの方法を探す。研究でも「泣き・寝付き対応を教育するプログラムがママのうつ症状軽減につながる」ことが示されています。
-
ママ・パートナー・家族で“感情・体調チェック”を定期的に行う:毎週5分「この1週間どうだった?泣いた?眠れた?休めた?」という時間を作り、ママ自身の感じていることを言葉にする。
・心構え・支援者としての視点
-
“育児は母親が全てやるべき”という思い込みを見直す:夜間・昼・休息・泣き対応、「家族・チーム」で担えるという前提を持つ。
-
ママのつらさを“比べない”:「他のママは平気そうだけど」と自分を追い込まず、「あなたのつらさはあなたのもの」と受け止める。支援者として「どんな小さな休息が今日あった?」という問いかけが有効。
-
“助けてください”を言いやすい環境をつくる:ママが「自分だけ頑張らなきゃ」「迷惑かけたくない」と思わずに、率直に休息を求められる雰囲気を家庭・友人・支援者で共有する。
-
長期視野で見る:赤ちゃんの泣き止まない時期や夜間覚醒は一時的なものでもあり、ママの休息・サポート環境があれば回復が早まることを信じる。睡眠・身体・心の三つを“回復トライアングル”として捉える。
・“ここだけの視点”
-
「ミニ休息ルール」を家庭で設定する。例:「夜中0時以降、ママが2時間連続寝られるように私が見守る」など。休息が1時間でも“連続”で取れれば、翌日の疲労感が大きく違います。
-
「泣き時間タイマー」をつくる。夫・パートナーが「今、泣いてから20分経ったから、あなた10分休んできて」と具体的なタイミングで声掛けできるようにする。ママが“泣きが始まったら休めない”と感じているなら、外部介入タイミングを家庭でルール化します。
-
「ママ・休息ログ」を記録してみる。例えば1週間「横になれた時間・泣き続けた時間・私が相談できた回数」をちょっとメモしてみる。数値化・可視化することで“疲れてる連続”という実感が夫婦で共有できます。
これらの対策・視点を家庭・夫・支援者が共通して持つことで、「眠れない夜、泣き止まない赤ちゃん…私だけつらいの?」と感じていたママが、“一人じゃない”という実感を持ちつつ、回復と安心の環境に導かれます。
――――――――
おわりに
夜中の赤ちゃんの泣き声、何度も起きる授乳・寝かしつけ、身体の回復がおいつかないママの眠れない夜――この経験は決して「あなただけ」のものではありません。
多くのママが同じような負荷を抱えています。ですが、同じように“支えられる”環境を持てているかどうかで、そのつらさが“一時的な通過点”となるか、“慢性的な負荷”へと変わるかが変わります。
このコンテンツで整理したように、「眠れない夜・泣き止まない赤ちゃん」はママの身体・ホルモン・眠り・育児環境・支援体制という複数の要素が重なった結果であり、なおかつそれは“可変”です。
つまり、夫・パートナー・家族・支援者が動けば、ママのつらさは軽くなり、回復に近づきます。
どうかママ自身も「私だけではない」「支えを求めていい」「休んでもいい」と思ってください。
そして、夫・パートナー・家族も「今日は私が見守るから休んで」「少し横になってていいよ」という言葉をぜひ日常にしてみてください。
夜が明け、赤ちゃんと穏やかな朝を迎えるために。あなたとあなたの家族が“安心できる育児スタート”を切れるよう願っています。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました。
参考文献:
-
Dennis CL, et al. “Association between sleep quality and postpartum depression.” BMC Psychiatry. 2014. (https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5322694/)
-
Tikotzky L, et al. “Relationships between postpartum depression, sleep, and infant-related sleep disruption.” Frontiers in Psychiatry. 2023.
-
McQuillan ME, et al. “Sleep-deprived new mothers gave their infants a higher priority than self: implications for maternal cognitive and emotional functioning.” Acta Paediatr. 2023.
