今回は、認知症の親との接し方マニュアルについて説明していきます
医療従事者の立場から説明していきますので、是非最後まで読んでみて下さい!
はじめに
「母が最近、同じ話ばかり繰り返す」「父が財布を盗られたと言い出して困っている」
――そんな日々の小さな異変に戸惑いながら、気づけば「介護者」になっていたという方も多いのではないでしょうか。
認知症の介護は、肉体的な疲れよりも、精神的なストレスや不安の方が大きくのしかかります。
特に初心者にとって、「どう接すればいいのかわからない」という不安は深刻です。
本マニュアルでは、介護初心者でも無理なく実践できる認知症の親との接し方を、最新の研究と実際の介護現場の知見を交えて、丁寧に解説していきます。
1. 認知症の基礎理解と、接し方の心構え
● 認知症とは何か?
- 脳の病気によって「記憶・判断力・行動」が徐々に障害される状態。
- アルツハイマー型、血管性、レビー小体型、前頭側頭型など種類がある。
- 認知症=すべてを忘れる病気ではない。感情や長期記憶は比較的保たれる。
● 初心者がまず知るべき「3つの心構え」
- 否定しない、訂正しない
- 「違うでしょ」と言うと混乱と不安が増す。
- 話を受け止めて、感情に寄り添うのが先。
- 見えないストレスを理解する
- 不安、孤独、身体的不快感が攻撃的な言動に現れる。
- 言動の裏にある「気持ち」に焦点を当てる。
- 一人で抱え込まない
- 介護者こそ支援を受けるべき存在。
- 地域包括支援センター、ケアマネジャーに早めに相談。
● 実は間違っていた対応例
- 「ちゃんと覚えて」「何度も言ったでしょ」はNG。
- 正論をぶつけても、かえって混乱や拒絶反応を招く。
- 最新の研究では、「共感的無視」(同意はせず、否定もせず受け流す)というテクニックが注目されている。
2. 認知症の親との実践的な接し方【場面別マニュアル】
● 会話のポイント
- 簡潔な言葉で、ゆっくり話す
- 「ご飯ですよ」ではなく、「お昼ごはん、食べましょうか」と具体的に。
- 相づち・うなずきで安心感を与える
- 内容よりも、「聞いてくれている」という態度が大事。
- 視線を合わせ、笑顔で接する
- 言葉の内容より「非言語コミュニケーション」が重要。
● 徘徊・妄想・興奮への対応
-
徘徊:止めるより「付き添う」
- 目的がある(昔の家に帰るなど)。まず話を聞く。
- 追いかけず、並んで歩きながら気をそらす。
-
妄想:事実否定よりも気持ちへの共感
- 財布を盗まれたという妄想→「それは心配だったね」とまず共感。
- その後、「一緒に探そう」と現実に戻す橋渡しを。
-
興奮:まず距離を取る、時間を置く
- 興奮時は声掛けせず、5〜10分時間を空けて対応。
- 「今は怒っているんだな」と客観的に捉える。
● 生活リズムを整えるための工夫
- 朝の光を浴びる:認知症の昼夜逆転防止に効果。
- 一日のスケジュールを固定:同じ時間に食事・トイレ・入浴。
- 週に2回以上のデイサービス:社会とのつながりで症状の進行抑制。
3. 最新研究から見る「接し方の科学的根拠」
● 非言語コミュニケーションが鍵
- カナダの研究(2023年):視線・表情・声のトーンが安心感に与える影響が大きいことを証明。
- 言葉よりも、「優しい目線と手のぬくもり」が安心を生む。
● 音楽療法と回想法
- 音楽療法:昭和歌謡や懐かしい童謡を一緒に聞くことで、感情が安定。
- 回想法:昔の写真や出来事を話すことで、長期記憶を刺激し、笑顔が増える。
- ポイント:思い出す内容が重要なのではなく、「思い出すという行為」が脳に良い刺激を与える。
● ストレス軽減には「マインドフル接し方」
- 認知症ケアの新概念「マインドフルネス・ケア」では、介護者自身が冷静でいられる心の状態を重視。
- 介護者の「余裕」が、認知症の人に安心を伝える。
- 1日5分の深呼吸でも効果があると複数の研究で実証。
おわりに
認知症の介護は、時に理不尽で、心が折れそうになることもあります。
しかし、「どう対応するか」を知っているだけで、状況は大きく変わります。
特に初心者の方は、「正しい答え」を探すよりも、「その場に合った柔らかい対応」を積み重ねることを意識してください。
そして、**介護者自身の心身の健康を守ることが、何よりも重要です。
**地域の支援制度を活用し、1人で抱え込まない介護を始めていきましょう。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました。
参考文献
- 鳥羽研二 他(2022)『認知症ケアの最新理論と実践』医学書院
- Canadian Journal of Neurological Sciences(2023)”The Role of Non-verbal Communication in Dementia Care”
- 厚生労働省:認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)