今回は、肩こりの原因は肩じゃない?意外な「真犯人」について説明していきます。
理学療法士の立場から説明していきますので、是非参考にしてみて下さい!
目次
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はじめに
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1 「肩こり=肩だけではない仕組み」
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2 「真犯人①:首・胸椎・鎖骨まわりの姿勢変化」
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3 「真犯人②:体幹・骨盤・下肢からの力の流れの乱れ」
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4 「真犯人③:生活習慣・心理・運動量と肩こりのリンク」
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5 「肩こり改善のための対策&整形外科・理学療法を受けるタイミング」
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おわりに
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参考文献
はじめに
肩こり――この言葉はあまりにも日常的に使われています。「肩が張る」「肩が重い」「肩がこわばる」など、肩まわりの違和感を訴える人は非常に多く、日本でも “国民病” と言われるほどです。
しかし、整形外科・理学療法の視点から言うと、肩こりの根本原因が 「肩そのもの」だけではないことが極めて多い のです。
つまり、肩こりを肩をもんだり温めたりだけで済ませていると、改善が遅れたり、慢性化したり、別の不調に波及したりすることがあります。
近年の研究では、例えば「前傾した頭部姿勢」「丸まった背中(胸椎後弯)」「骨盤・股関節の安定性低下」「運動量が少ない/心理的ストレスが強い」ことが、首・肩・肩甲帯の筋・関節・神経系に負荷をかけ、結果的に肩こりを引き起こす“真犯人”として注目されています。
このコンテンツでは、「肩こりの本当の原因=肩じゃないかもしれない」をテーマに、理学療法士としての知見と国内外の最新研究を交えながら、誰でも実践できる視点で整理します。
肩こりが慢性化する前に、「真犯人」を見つけて対策を始めましょう。
1 「肩こり=肩だけではない仕組み」
・肩こりの一般的理解
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肩の筋肉(特に僧帽筋上部・肩甲挙筋・棘上筋・棘下筋など)が “張る・固まる” ことで肩こりと感じる。
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肩をもむ・肩甲骨を動かす・ストレッチをする等が典型的な対策。
・しかしこの理解だけでは不十分な理由
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肩だけへのアプローチでは、肩こりが繰り返す・改善が遅いケースが多い。
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解剖学的・運動学的に見ると、肩甲帯・鎖骨・胸椎・頸椎・体幹・骨盤・下肢まで連動しており、肩だけを局所的に捉えると“部分最適”で終わる。
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最新の疫学研究では、肩こり・首‐肩痛において「姿勢」「運動量」「心理社会的因子」が強く関連しているというデータが出ています。
・理学療法士としての視点
肩こりの患者さんを評価する際には、肩周囲の筋・関節だけでなく、首・胸椎・骨盤・股関節・脚部の安定性、立ち姿勢・座り姿勢・動作時の肩甲帯運動・日常の活動量・運動習慣・ストレス・睡眠状況など、 “系統的に身体をつなげて見る” 必要があります。
肩という“末端”の症状から逆算して、どこで“負荷”がかかっているかを探るのがプロのアプローチです。
・まとめ
肩こり=肩を揉めば終わり、ではない。肩こりはしばしば「身体の別の部位・姿勢・習慣」が引き金となって肩に痛みや張りを生じさせているサインということを、まず把握しておきましょう。
2 「真犯人①:首・胸椎・鎖骨まわりの姿勢変化」
・前傾頭部・丸まった背中・肩甲帯の変位が肩に与える影響
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頭が前方に出る(前傾頭部姿勢/forward head posture, FHP)は、首・肩甲帯・胸椎‐鎖骨の筋・腱・靭帯・関節に異常な負荷をかけます。
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胸椎が後弯(丸まった背中)になると、肩甲骨・鎖骨の位置が変化し、肩甲帯を支える筋(例:菱形筋・下・中僧帽筋・肩甲挙筋など)の働きが悪くなります。
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肩甲骨が前下方にずれる「丸肩」(rounded shoulder posture, RSP)になると、肩関節・肩甲帯・上肢の運動連鎖が乱れ、肩甲骨上部・僧帽筋上部などに過剰負荷がかかることが報告されています。
・典型的な姿勢変化による影響
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前傾姿勢で頭を長時間出している(スマホ・タブレット操作・PC作業) → 首・肩の後面筋が長時間伸張・過緊張。
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胸を丸めて座る・背中を支えず立つ → 肩甲帯が前下方化し、肩甲骨‐上腕骨の運動が制限され、肩甲帯筋に疲労が蓄積。
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鎖骨‐肩甲骨関節(肩鎖関節)・肩甲胸郭関節の位置変化 → 肩を上げる・物を取る・手を伸ばす動作で肩に“違和感”や張りが出る。
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頸椎・胸椎‐肩甲帯の可動性低下 → 肩を動かすために肩甲帯筋が代償動作をすることでこわばり・痛み発生。
・研究が示す“姿勢変化と肩こり/首肩痛”の関連性
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高校生を対象とした研究では、首を前に出して歩く・背中を丸くして歩く・肩が前に出ている姿勢などが、首・肩痛(Neck and Shoulder Pain; NSP)と有意に関連していたことが示されています。
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FHPおよびRSPを有する人の姿勢運動パターンを調査したレビューでは、「FHP+RSPが上肢・肩甲帯・頸部に生理的・構造的負荷を生み、肩こり・肩関節障害の背景因子となる」と報告されています。
・理学療法士からのチェックポイント
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鏡の前で横から立った/座った状態で、頭頂‐腰‐踵が一直線上にあるか?頭が前方に出ていないか?
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座っているとき肩が丸まっていないか?肩甲骨が外側・下方へ引かれた感じがないか?
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物を取る・手を伸ばす・高い棚に手をかける際に肩に“ひっかかり”・張り・痛みを感じないか?
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長時間のデスク作業・スマホ操作後に肩だけでなく「首が疲れた・背中がだるい・肩甲骨間が張る」などの訴えがないか?
・まとめ
肩こりの“真犯人”の一つとして、首・胸椎・肩甲帯の姿勢変化があります。肩だけをケアするのではなく、頭・首・背中・肩甲帯のアライメントを整え、肩が「頑張らなくて済む」状態にすることが重要です。
3 「真犯人②:体幹・骨盤・下肢からの力の流れの乱れ」
・肩こりに影響を与える下方からの要素
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実は、肩甲帯・上肢を支える“土台”は骨盤・体幹・下肢にあります。骨盤が傾く・股関節・脚の支持が弱い・足元が不安定であると、肩甲帯・肩・首に代償が生じやすくなります。
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例えば、骨盤の左右非対称・片方に体重をかける癖・脚長差・足のアーチ低下などが肩甲帯筋・肩周囲筋に影響を与えるという研究も少しずつ出てきています。
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また、体幹が弱く姿勢を維持できないと、肩甲帯・肩・首が“体を引き上げて支える”状態になり、肩こりを引き起こす土壌となります。
・典型的な“下方からの乱れ”による影響
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立っている/歩いているとき、いつも片方の脚に体重を乗せてしまう → 肩甲帯・肩・首が片側で支える負荷が増える。
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骨盤が前傾・後傾・左右傾きがある → 背骨・肩甲帯の位置・筋バランスが乱れ、肩の張り・こわばりが出る。
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足底・足関節が不安定(外反・内反・アーチ低下) → 脚・骨盤から肩甲帯までの“力の伝達ルート”が不均一になり、肩まわり筋が余分に働く。
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体幹(腹横筋・多裂筋・腸腰筋など)が弱く、立位・動作時に肩甲帯・首・肩が代償的に“姿勢を支える”筋として過緊張になる。
・研究が示す“体幹・骨盤・下肢”と肩こりの関連性
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“低運動量と姿勢異常”との関連を分析した研究では、運動量が少ない若年層は肩こり・首肩痛を訴える割合が高く、姿勢(丸肩・FHP)だけでなく下肢・体幹の機能低下も関与する可能性が指摘されています。
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また、心理・身体・姿勢因子を総合した研究では、肩こり・首肩痛の発症には「姿勢異常・体幹制御低下・筋バランス異常」が関連しており、“肩だけを揉んでも改善しにくい”という結論が出ています。
・理学療法士からのアプローチ
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立っているとき/座っているときの脚の荷重分布・骨盤の位相(前後・左右)をチェック。
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体幹(腹筋・背筋・多裂筋・臀筋)の筋力・活性度を簡易に確認し、“肩が姿勢を支えていないか”を評価。
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足部・足底・足関節の支持力・アーチ・歩行パターンを観察し、肩甲帯‐下肢間の連動に異常がないかを確認。
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“肩だけもむ”のではなく、「脚・骨盤・体幹の使い方・立ち・歩き方」を変える指導も併せて行う。
・まとめ
肩こりは“肩から上だけ”の問題ではなく、“身体の土台”である骨盤・体幹・下肢の乱れが肩甲帯・肩・首に波及して起きているケースが多いのです。
肩を楽にするためには、上からだけでなく“下からのアプローチ”も見逃せません。
4 「真犯人③:生活習慣・心理・運動量と肩こりのリンク」
・肩こりに影響する“見えにくい因子”
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座り時間の長さ・スマホ・PC作業などで頭・首・肩を前に出した姿勢を長時間継続する。
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運動量が少ない・筋力が低い・立ち上がり・歩き出し・動作開始時に肩が重い・使いづらさがある。
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睡眠の質の低下・ストレス・心理的負荷・身体にリラックスできない緊張が常態化している。
・研究で明らかになった生活習慣・心理の影響
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首・肩痛を対象にした大規模研究で、「睡眠障害・自覚的健康状態が中等・不良の人」が有意に肩・首痛のリスクが高いことが報告されています。
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WFH(在宅勤務)・長時間スマホ・タブレット使用者では、肩こり・首肩の筋・関節症状が増加し、デバイス姿勢・画面姿勢が“前かがみ・頭部前出し”を助長していることが報告されています。
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運動量が少ない若者では、肩甲帯・首肩の姿勢が悪くなり、“丸肩・頭部前出し”傾向が強く、肩こりを訴える割合が上がるとの報告もあります。
・習慣改善のための実践ポイント
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座っている時間を1時間ごとに区切って、立ち上がる/体を伸ばす/肩甲帯をリセットする。
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スマホ・タブレット操作時に「頭が前に出ていないか」「画面の高さが目線より低くないか」を確認し、可能なら画面を目線近くに上げる。
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週150分以上の中強度運動(ウォーキング・サイクリング・スイミングなど)を目指し、肩甲帯・体幹・下肢を含めた運動習慣を持つ。
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睡眠の質を高める:良い枕・寝具・寝姿勢・就寝前のスマホ操作控えめなど、肩・首・上背部がリラックスできる環境を整える。
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ストレス・心理的負担を軽くするために、リラックス法・深呼吸・軽いストレッチなどを日常に組み込む。
・理学療法士からのメッセージ
肩こりがなかなか改善しない場合、「肩だけを揉んでも変わらない/戻る」ようであれば、生活習慣・運動量・姿勢・心理という背景を見直す必要があります。
これら“見えにくい因子”が肩こりの根本を作っていることが増えています。
5 「肩こり改善のための対策&整形外科・理学療法を受けるタイミング」
・肩こり改善のための対策
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姿勢チェック:立ち/座り姿勢を鏡やスマホで撮影し、頭部前出し・肩丸まり・骨盤傾斜などを確認。
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肩甲帯・体幹・下肢の筋力・柔軟性トレーニング:例えば、肩甲骨回し・胸を開くストレッチ・大殿筋・腸腰筋・ハムストリングスのストレッチなど。
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日常動作の見直し:荷物を持つ時・スマホ操作・デスクワーク時の姿勢・家事中の体の使い方を意識する。
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運動習慣を定着:週3回以上、20〜30分程度の運動を継続し、“動かす姿勢”を日常に増やす。
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睡眠・ストレス・休息を整える:肩甲帯・首肩がリラックスできる就寝環境を整える。
・整形外科・理学療法を受けるタイミング
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肩こりが 3ヶ月以上改善しない・頻繁に再発する。
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肩こりに加えて「腕のしびれ・肩から腕にかけての痛み・夜間痛・肩を挙げる・動かすとひっかかる感じ」がある。
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肩こり以外に「首がこわばる・頭痛が出る・手の感覚が鈍い/力が入りにくい」という症状が出てきた。
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姿勢改善・運動・生活習慣改善を行ったが変化がほとんどない/悪化傾向がある。
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過去に肩・首・背中・骨盤・脚の手術歴がある/怪我をしてから肩こりが出始めた。
・整形外科・理学療法で行われること
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姿勢・動作・筋力・可動域・神経・関節の評価。
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画像検査(必要に応じて)で頸椎・肩甲帯・肩関節に構造的変化がないか確認。
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理学療法士による姿勢・動作修正・筋トレ・ストレッチ・整体的なアプローチ。
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保存的治療が無効な場合、専門医による治療(注射・手術など)検討。
・まとめ
肩こりを根本から改善するには、「肩をもむだけ」では足りません。
真犯人を突き止め、姿勢・体幹・下肢・生活習慣・心理といった背景を整えることが鍵です。
そして、セルフケアで改善が見られない場合には、早めに整形外科・理学療法を受けることで慢性化のリスクを下げることができます。
おわりに
肩こり――肩を揉んだり、湿布を貼ったり、温めたり、そんな対処を繰り返していませんか?
その場しのぎでラクにはなるかもしれませんが、しばらくするとまた張る…という方は少なくありません。
これはまさに「肩こりの真犯人」が肩ではなく、首・胸椎・肩甲帯・体幹・骨盤・脚・生活習慣・心理という“別のレイヤー”にあるからです。
最新の研究では、頭部前傾・丸まった背中・姿勢保持筋力低下・動かない生活・心理的ストレスが、首肩・肩甲帯の筋・関節・神経系に慢性的な負荷を与えるという報告があります。
理学療法士として言えば、「肩こり=肩に原因」が当たり前と思わず、「立ち方・座り方・歩き方」「骨盤・体幹・脚の使い方」「生活習慣・運動・ストレス」「姿勢・動作・筋力・アライメント」を見直すことが、肩こりの根本改善への第一歩です。
もし肩こりが長引いている・繰り返している・手にしびれなど付随症状があるなら、肩だけでなく身体全体を見て、専門的な評価を受けることをお勧めします。
このコンテンツが、あなたの肩こりと向き合うきっかけになれば幸いです。肩ではなく「真犯人」を探し、肩こりを根本からラクにしていきましょう。
(※本コンテンツは医療・理学療法の情報提供を目的としており、診断・治療を保証するものではありません。具体的な症状がある場合は、医療機関を受診してください。)
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました。
参考文献
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Wang Y., et al. “Risk factors associated with the prevalence of neck and shoulder pain: a cross-sectional study among high school students.” PMCID. 2023; (see article)
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Sichting F., Kett A.R. “A neuromuscular integration approach to the rehabilitation of forward head and rounded shoulder posture: Systematic review of literature.” Frontiers in Bioengineering and Biotechnology. 2023;11:1214693.
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Vasseljen O., Eriksen H.R. “Factors associated with neck or shoulder pain among employees: physical activity, sleep, general health.” BMC Musculoskeletal Disorders. 2020;21:612.
